※この時期はU-17合宿中だと思われますがそこはあまり追求しないで下さい(^^)/
※ペアプリDVD2巻の内容を少し含んでおります。
※不二がヘタレです。





またしてもこの季節がやってきた。
日本の秋のイベントとしても徐々に浸透しつつあるらしい、ハロウィン。
昨年度は不二がお化けの格好をして英二を驚かせた。
突然の出現とそのリアルで恐ろしいだけの格好に英二は暫く口がきけなくなるというアクシデントが起きたのだった。
不二はまさかそこまで英二が驚くとは思わなかったので酷く反省をしていた。
本当ならばその後お楽しみとして英二の大好きな甘いお菓子を持ち寄り、お喋りを楽しむという一般的に過ごすつもりだったのだが…。
このことをきっかけに絶交と英二は言って一週間ほど喧嘩をするまでに発展してしまっていた。

今年はそうはいくまい。
イタズラもほどほどに。
だがただのハロウィンでは面白くない。
不二は今年どんなことをやろうかと英二にナイショで企画をしている。

果たしてどんなことを企てようとしているのだろうか。





10月30日。
そもそも日本の風習ではないこのハロウィン。
本来は日本でいうお盆のような行事である。
しかし世間というのは経済や利益のみを中心に考えているのかどうかはわからないが、雑貨屋には多くのハロウィングッズが売られている。
最近ではコスプレも主流となっているようで、比較的安価でハロウィン衣装が手に入ってしまう。
カボチャをあしらったパンプキンカラーのドレスから闇色の魔女の服、コウモリの羽付き衣装など様々だ。
もうハロウィンは明日だが不二は未だに悩んでいる。
するとそこに見覚えのある二人を発見した。
立海の仁王と柳生だった。

「君達こんなところで何をしているの?」
「それはこっちのセリフじゃき…久しぶりよのぅ」

銀色の髪はこの雑貨屋でもかなり目立っているので誰だかすぐに判断できた。
隣の紳士も礼儀正しい態度で不二に挨拶をしてきた。
柳生が手にしている衣装を見て何を見に来ていたのか咄嗟に理解した。

「なるほど…君達もハロウィン衣装を見に来たんだね」
「立海の部員でやることになったのです。不二君はどうなさったのです?」
「僕も似たようなところだよ…だけど君達も飽きないね。変装グッズはもう溢れ返ってるんじゃない?」

以前裕太とデパートに買い物へ行ったときもこの二人に出くわした。
イリュージョンには欠かせないそうだがおそらく費用的にも痛いはずだ。

「今年はこれで行くかの、柳生」
「あなたも好きですね…これに似たような衣装は仁王君も持っていたでしょう」

どうやら仁王は吸血鬼のマントを買おうとしていたようだ。
しかし柳生の言うとおり、仁王は似た衣装を以前購入している。
だがその点を追求されても作りが違うだとか生地の雰囲気が違うと仁王は言う。

「不二、これはオススメじゃ」
「そう?じゃあ…僕もこれにしようかな」
「しかし青学でもハロウィンをするとは思わなかったですね」
「え?!あ…あぁ…まぁね」

部活でハロウィンをするわけではない。
しかし説明をするのも何だか面倒だった。
本当は英二と二人だけでやるのだが怪しまれても困るし、かといって個人的に楽しむなんて言い方も変に思われそうだ。
不二は適当に誤魔化して早々に退散した。

「不二君の様子が気になりますね」
「プリッ…柳生、物事はあまり深く知らない方がいいこともあるからのぅ」
「どういう意味でしょう?」
「…こっちの話じゃ」





不二は衣装を自分の部屋で試着してみた。
サイズもピッタリ。
そしてなんといっても吸血鬼らしく見える。
安物であるのにクオリティーはわりと高い。
さすが詐欺師はお目が高い。
明日は英二が不二の家に遊びに来ることになっているので今から楽しみだ。





翌日になると英二はいつもに加えてテンションが高かった。
おそらくは不二の姉から貰えるお菓子を期待している様子だった。
姉は会社の出張先の現地で変わった菓子を買ってきたことを不二は英二に話していた。
甘いものも大好きな英二が目を光らせたのは言うまでもない。
そもそもこんなことをわざわざ英二に伝えたのも絶対に家に招きたいという強い気持ちが不二にあったからである。
そしてこの日に不二は一つの段階として一歩前に進むつもりだった。

キスがしたい。

不二は頬に軽く触れる程度のキスしかしたことがないからだ。
だからこそ、今回は英二のキャンディーのような唇にキスをしたい。

「おじゃましまーす!」

英二は不二の家に上がり、早速不二の部屋へ向かう。
まるで自宅のように振る舞うが不二としてはそれは嬉しかった。
英二はお目当てのお菓子を貰って喜んでいる中、ちょっと野暮用と言って不二は席をはずす。
ここで吸血鬼の衣装に変えて部屋へ行くと英二は一瞬だけ固まった。

「Trick or Treat?」
「また…はぁ。懲りないねぇ不二も〜」

英二に呆れられて格好のつかなくなった不二は少しだけ膨れて英二に迫る。

「英二だってイベント楽しみたいって言ってたじゃない!そのために僕は英二の衣装も用意したんだよ!ほらっ」

取り出した衣装は可愛らしいフリルのついた魔女っ子ワンピースである。
しかし英二は手に持った途端、床にバシっと捨ててしまった。

「ちょっ…英二!!」
「だーかーらー…なんでオレは女物なんだよ?!俺だって不二みたいにカッコイイのがいい!!」
「英二は可愛いのが似合うよ!」
「そんなことないーっ!俺は着ないかんなっ」

女物が嫌だったようで機嫌を悪くした英二。
不二はここでまずいと思った。
思わしくない様子は見事的中。
英二は帰ると言い出した。

「ごめんってば!英二!」
「不二の変態。もう知らにゃい」

一度あることは二度あるらしい。
またしても昨年同様喧嘩をしてしまう羽目になってしまった。
不二は追いかけようとするが英二を見失ってしまう。
どうやら追いかけてきて欲しくなかったようで、英二は全速力で走ったのだろう。
不二は野望を叶えるどころか喧嘩までしてしまってこの先どうしたらいいのかわからずにいた。

「英二…一人ぼっちは寂しいよ〜」

柄にもなく涙を零した不二は一人で家に帰ることにした。
そして今、まだ吸血鬼のマントを羽織っていたままだったことに不二は気付いた。





翌日。
教室で目が合っても全くツンとしたまま話をしない英二に我慢ならなくなった不二は次の授業をさぼった。
英二もこの授業をさぼっている。
このチャンスでしか仲直りできない気がした不二は英二を必死に探した。
今日は大雨なので屋上にいるはずないと思いつつ、行ってみると屋上に繋がるドアの前に英二はいた。
マネすんなよと不二は英二に言われた。

「英二のマネをするつもりでここに来たわけじゃないよ」
「ふんだ」
「いい加減機嫌直してよ」
「それが謝る態度かよ!そんなに不二がスカート履かせたかったら女の子と付き合っちゃえばいいんだっ」

大きな声で英二が喋るので不二は慌てて英二の口を手で塞いだ。
掌に英二の吐息がかかる。

「んぐ〜〜〜!!」
「そんなこと大声で言わないでよ!別に僕はスカートが大好きな変態じゃないよ」
「ヘンタイじゃんか!普通にお前は楽しむってことができないわけ?」

英二に言われると本当に悲しくなってくる。
不二は自分の気持ちを伝えたいだけ、また一緒に楽しみたかっただけなのにどうも上手くいかない。
すると英二は身を乗り出して不二に近付きあと数センチで唇がくっついてしまいそうになる。

「次やったらマジ別れるかんな」
「えっ」
「えっ、じゃないよ。そーいう変態チックなこと押しつけるつもりなら…」
「わかった!わかったから!お願いだよ、英二…許してよ」

不二は涙目になった。
いつもなら牽制するのは自分の方のはずなのに今回は完全に英二に主導権を握られていた。
無理もない。
不二は完敗だった。

「ちょ…泣くなよ不二」
「だって…そんなに嫌がると思わなくて…」
「あー…えっとさ…」

英二は何か言いたげな様子だった。
英二がここまで怒ったのには理由があるらしい。
どうも昨日、雑貨屋で不二が仁王と柳生の二人と話しているところを偶然英二は見たらしいのだ。
それだけならまだよかったが、そのハロウィンの衣装で楽しそうに話していたことに英二は気がかりになっていたらしい。
どうせなら俺も誘ってくれればよかったのにとヘソを曲げていた。

「英二…あれはサプライズのつもりだったんだよ」
「むー…そうかもだけど…」
「わかった。ごめんね、英二。僕は別に立海のメンバーとお喋りしてただけで英二を仲間はずれにしたわけじゃないんだよ」
「そんなのわかってるよっ」

英二が嫉妬する気持ちもわからなくもない。
逆に不二としては嬉しかった。
むっと膨れている英二は可愛かった。
不二はそっと英二に近付くとぎゅっと抱き締めた。
誰もいない授業中の踊り場は静かで二人だけの空間のようだった。

「ごめん…俺が結局妬いてるだけなんだよな」
「英二…いいんだよ」
「不二が怒らないから俺も調子に乗るんだよ」
「そうだね、僕が悪い」
「んっ…?!」

不二はついに念願の唇を奪うことに成功した。
どさくさに紛れて野望を果たした不二。
もちろんこの後、英二という名の猫に顔面を引っかかれたことは言うまでもない。