※この時期はU-17合宿中と思われますが矛盾点は無視して下さい(^^)/
「くだらんな」
そう吐き捨てたのは手塚国光だ。
当然彼の性格からして気は乗らないだろうと思っていた不二。
淹れたてのメープル・オレを不二は一口飲み、ため息をついた。
今日は街中のコーヒーショップでまったりと過ごしている。
部活を引退してからはゆっくりした時間が取れるというのに、不二の目の前で座っているこの男は受験勉強だなんだと理由をつけては一緒に出かけることさえなかった。
漸く不二が我慢できなくなり暴れたために仕方なく、といった様子で手塚は付き合っている。
そもそも手塚からするとわざわざ休日に二人で出かけるというのも納得いかなかった。
嫌だというわけでもないが学校でも顔を合わせているのに何故と疑問を持ち、率直にその疑問を不二にぶつけたしまった際は仲直りするまでに時間がかかった。
不二はいつも膨れている表情しか最近は見ていないような気がする、と手塚は思った。
不満そうにしているので手塚は声をかけた。
「お前はどうしたいんだ」
「手塚の家でまったりしたい」
「さっきと言ってることが違うじゃないか」
「だってしょうがないじゃない。手塚は遊びたくないっていうし!」
ガチャン!とうるさく音を立てて不二はカップをソーサーに置いた。
割れなかったのが奇跡のようだ。
店員が早く帰ってくれないだろうかとひやひやしながらこちらを見ている。
周囲の客も少ないがこちらを見ているので手塚は慌てて不二を制した。
「いい加減にしろ、不二。他のお客様に迷惑ではないか」
「ふん。他のお客さんには気を遣うくせに僕には遣ってくれないわけだね。よくわかったよ」
フレーバーコーヒーを飲み終えた不二は立ち上がった。
やっと帰ってくれると店員がほっとしているのが遠目でもわかる。
荒々しく去っていく不二を店員がかかわらないように遠巻きにしているのを見ながら手塚はなんと声をかけたらいいかもわからず、とりあえず申し訳なさそうに会釈をして店を後にした。
店を出たあとも不二はずっとぷりぷり怒っている。
これだから奴の機嫌を損ねたくはないのだといつも手塚は気を遣っていたつもりなのだが、どうやら不二には伝わらないらしい。
こちらの身にもなって欲しいものだと手塚は思った。
その後も特に出かける先は決めていなかったが、このままどこかに行くという雰囲気でもなくなってしまい解散することにした。
誘っておきながら随分と身勝手な奴だと手塚は思った。
別れ際も不二はツンとしていて話すのも億劫になった手塚は今日のことは忘れてしまおうと帰宅してから早々に寝てしまった。
翌日になって学校へ行くと早速手塚の元にあの黄金ペアが現れた。
テニスの誘いなら断るつもりもなかったのだが、内容を聞いて話をするのが面倒になった手塚は彼らを無視することにした。
人が誰と喧嘩をしようが勝手であるはずなのに、この二人は特に余計に話をごちゃごちゃに掻き混ぜようとする。
不愉快極まりない。
「手塚ー!不二がね、教室でもグチグチ言ってるんだよー?!俺の身にもなってよね」
それはむしろこちらのセリフだ。
俺が何をしたというんだ、と手塚は眉間に皺を寄せて言うと次の授業が移動教室であることを理由に二人を巻いた。
そもそも付き合うということを未だによく理解していないことに手塚は気付いた。
こんなことになるなら別れてしまった方が楽なのかもしれないとさえ思ってしまった。
だが不二に今のことを伝えたら口をきかないどころの話じゃなくなるのは自分でも理解していた。
手塚は理科室に向かいながら不二のことをぼんやりと考えて悩んでいた。
その後保健室を壊すのではないかという勢いで不二がやってきた。
息を切らして駆けつけてくれたその姿は汗をかいて沈着冷静な天才・不二周助の姿ではなかった。
「バカじゃないの!僕を置いて死ぬようなことするなよ!!」
「…お前の方がバカだろう。こんなこと大したことではない」
理科の実験中の出来事だった。
普段は火の扱いから薬品の扱いまで慎重であったはずの手塚がうっかり操作方法を誤ってしまったのだ。
大きく炎上した机は耐熱性であるため、またクラスメートも距離があったため大事に至らなかったが、操作をしていた手塚は若干火傷をしていた。
火傷といっても表面を少し炙った程度ですぐに冷やしたため平気だと何度も手塚は言ったのだが、気が動転した天才は今も慌てた様子でこちらを窺う。
大したことではないのに。
「僕…手塚が少しでも傷ついたりしたら耐えられない。僕も同じく火傷をするよ」
どこから持ってきたのか、あるいは常備しているのか不二はライターを取り出して火をつけようとした。
「何を考えてるんだ!!」
「だって…手塚が辛い思いをしているのに…!!」
「これは俺の不注意で起こってしまった事故だ。俺がぼうっとしていたのが悪いんだ…」
冗談で済まさないのが不二だから手塚は焦った。
不二はやろうとしたことは必ずやる。
どうしてそんな考えに発展してしまうのかわからないがとりあえずライターは回収した。
こんな危ないもの自体学校に持ってきていることが手塚としても、そして生徒会長としても許せなかった。
取り上げられると不二は再び膨れた。
だが昨日と違って機嫌はだいぶよくなっているように思う。
「不二」
「なに?」
「この間はすまなかったな…その…」
「うん?」
「来週のハロウィンの話だが…お前がよければ俺の家に来ればいい」
「本当?いいの?あの衣装とか持ってちゃうけどいいんだね?」
あの衣装とは何の衣装のことかよくわからなかったが、話を折りたくなかったので手塚はゆっくりと頷いた。
不二は今までにないくらい嬉しそうにしていた。
やっと機嫌が完全によく直ったようなので手塚は安心した。
だがここで安心するには早いことはこの時点では手塚は気付かなかった…。
