英二は薬の効き目がなくなったらしく目が覚めたらしい。
僕が側にいなくて不安になり、すぐ探してくれたみたいだ。
それなのに僕の服ははだけてるし、幸村がいるしで英二は不安がさらに増したと
言う。
不安にさせた上、英二を守るどころか英二に守られたなんて…彼氏失格だ。
「不二なんもされてないよね?大丈夫だよね?!」
「うん…英二がすぐ来てくれたからね。英二、心配かけてごめん。僕が…全部悪
いんだ」
「何言ってんのさ!不二の薬を勝手に飲んだのは俺だし、不二がピンチになるま
で気付かないとか…あ〜もう俺のバカバカ!」
僕は自分の頭を叩く英二の手を止めた。
英二は何も悪くない。
僕は英二を抱き締めた。
服をまだ完全に着ていないまま…
「不二…///」
「もう…僕達は離れない…誰にも邪魔なんてされない、されるもんか」
「う…うん」
「英二」
「ん…?」
このまま英二を僕の家に連れて行く。
もういつまでも僕はヘタレなんかじゃない。
マヌケでもない。
僕は…英二のヒーローだから。
どんなことが起こっても僕は何も動じない。
今晩、英二を抱く。
いつもと雰囲気が違うと英二は言った。
そうかな?
意識はあんまりしていないけど決意したから…雰囲気が違うのかもしれない。
「あ…あのさ…は、初めて…だから…その…」
「緊張なら僕だってしてるよ…ねぇ、英二には僕が魅力的に見えてる?」
「み、見えてるに決まってんじゃん!だ、だって…不二カッコいいし…。俺…恥
ずかしくて今まで避けてたの…わざと」
そうだったんだ…。
じゃあこれは僕の押しが足りなかったってことだ。
つまりは僕の努力が足りなかった…ってことか。
僕自身も自信がなくて、運がないせいだとか周りのせいにしていた。
でも本当は違ったんだ。
自分に自信がなかったから先へ進めなかったんだね。
「優しく…してね」
「わかってるよ」
夜空を見上げれば綺麗な満月が出ている。
きっと僕らを祝福するために月が満ちたんだ。
運命もこの時を待っていたんだ。
「ん…すごい…不二…ぃ…」
「英二…っ」
「あ…んっ!」
「ごめ…余裕…なくて…っ…」
「んっ…!だ…ダメ…もう…!!」
やっと英二と一緒になれた。
この日をどんなに待ち望んでいたことか。
「不二!!!」
「わっ!え…何?」
「何?じゃないよ!このままじゃ遅刻しちゃうよ!!手塚に怒られる〜!」
何事かと時計を見ればもう朝練が始まる時間…まさか今のは…
「夢?!」
「もう!俺先行くかんな!」
今のは夢だった…のか?
すごくリアルでとても夢だと思えなかった。
僕はやはり最後までヘタレだったのか…。
「遅い。何をしている」
「ごめぇん…どうしても起きれなくてさ」
「グラウンド5周!」
英二は5周走らされた。
他の人達は5周だけなんていつもより少ないじゃないか、と言っていた。
やっぱり菊丸には贔屓しているんだと囁かれた。
僕は10周なのに…。
英二は相変わらずいろーんな人から好かれている。
まだまだ僕は油断できない。
「ねぇ不二。俺ちょっと聞こえちゃったんだけどさ…昨日何の夢見てた?」
「(き、聞こえちゃった?!まさか…僕とんでもないこと言ってないよね…)夢
なんて大したことないよ。それより聞きたいことがあるんだ、昨日帰った後の記
憶がなくてさ」
「昨日?何もないよ、部屋行ったら不二爆睡してただけ」
そんなぁぁ…
僕はなんてことを…!!
信じられなかった。
やっと決意したのに!
英二を放って爆睡!
ありえない…
「嘘!昨日…すごくよかった」
「え?」
「でもシた後にすぐ爆睡したのは本当だよ?不二疲れてたみたいだし」
そうだったんだ…!
僕は夢を見ただけだと思っていたけど…よかった。
でも全てが記憶に残っていないのは残念だ。
「今度はちゃんと覚えててよ?」
「僕は完全に忘れたわけじゃないよ!英二の顔や声はちゃんと…」
「え〜そうなの?!なぁんだ…恥ずかしいから忘れてほしかったのにぃ」
僕は絶対に忘れたりなんかしないよ。
もう僕はヘタレなヒーローなんかじゃないさ。
