俺は英二先輩にメールをした。
別に不二先輩に連絡がつかないわけじゃない。
ただ英二先輩と連絡を取りたいと思っただけだ。
英二先輩はすぐに返信してくれた。
“おチビは元気だった?!皆会いたがってるから絶対来いよ?あっ、ちなみに不二は死んでも絶対来いってさ。あいつの言葉は時々マジに怖いからおチビが来ないと大変なことになるよ?笑”
大変なことになるよって…なんでそこまで言うんだろ。
俺だって会えるのは嬉しいけど…。
なんだかんだ言ってる間にもうあと1週間なのか。
12月24日。
俺は指定されていた場所に向かう。
ビルのフロアを予約したって言うからどんな廃ビルかと思いきや、全く想像とは正反対の綺麗なビル。
しかもまだ建てたばかりらしくて、他のフロアは聞き覚えのあるアーティストがライブをしたり、トークショーをしたりするらしい。
こんな一等地、しかも日にちは24日のイヴとか一体どうやって貸し切ったのか。
不二先輩達の力はすごい…としか言えない。
言われたフロアへエレベーターで上がる。
何がどうなっているかなんてわからないまま、重たい扉を開けるとクラッカー音と共に祝福を述べられた。
「「「越前、誕生日おめでとう☆☆☆」」」
「…え?」
こういうことするんだ…先輩達は本当にズルい。
そんな案に乗っかった俺も俺だけど。
クラッカーの中身を頭から被った状態のまま、目の前に掲げられたボードを見れば同窓会の文字は一切なく、誕生日おめでとうの文字のみだった。
しかもこのフロアにクリスマスシーズンには欠かせない緑や赤がない。
ツリーもない。
サンタクロースも、トナカイも、リースも…ない。
ここで俺はかなり昔…まだ青春学園中等部のテニス部に入ったばかりのことを思い出した。
英二先輩におチビちゃん、不二先輩に越前くん、とむず痒い呼ばれ方をされていたときに遡る。
あのときに俺は誕生日を聞かれた。
12月24日だと言ったら“可哀想な子”と英二先輩に言われた。
俺は思い当たるフシがなかったわけじゃないけれど、一方的に可哀想と決めつけられて腹が立ったからすぐに否定した。
『可哀想とか言わないでくれません?別に自分でそう思ったことないっすから』
『強がんなくていいって!クリスマスと誕生日は纏めてお祝いってパターンだろ?俺の知り合いにも元旦が誕生日とか閏年が誕生日とかいるんだぜ?気にすんなって!』
『…僕って英二にとってただの知り合いなのかい?』
『うわぁ!不二!突然現れるなっての!!知り合いじゃなくて恋人!ハイっ、これでいい!?』
『やっつけ仕事みたいに言わないでよ英二…まったく』
『んでんで♪そんなおチビちゃんのために今年は皆でお祝いしようぜ!クリスマスなんてぶっ飛ばしちゃってさ!』
『いや…そういうの好きじゃないんで。遠慮するっス』
そう言ったら英二先輩が頬を膨らまして先輩という権力を振りかざしてきたんだった。
先輩命令だ〜、とか先輩に楯突く気か〜とか。
でも俺は恥ずかしくて結局行かなかった。
先輩達は俺のために企画してくれたのに。
そのことで桃先輩と海堂先輩からものすごく怒られた。
無理もない、悪いのは俺だ。
『お前先輩達に謝れよ!何で来なかったんだよ!!』
『そういうの…苦手だから』
『てめぇ…何様のつもりか知らねぇがな、俺だって参加したんだ。別に恥ずかしいも苦手もねぇ…。人の好意を無駄にするんじゃねぇぞコラァ!』
さすがにビビった。
桃先輩も海堂先輩も怒る場面を何度も見たことがあるけれど、今回は今までとは比べ物にならないくらいに怒っていた。
俺はこのとき、本当にどうしたらいいかわからなくて、ただ俯いていた。
それからというもの、全く誕生日会というものには一切参加しなかった。
合わせる顔がなかったから。
「こうでもしないとお前来ないからさ〜!ね、不二!」
「英二と僕による策略だよ。僕の脅しも効いたかな…まぁ君も知ってはいたみたいだけどね」
「英二先輩…不二先輩…」
「おチビとはあれからずっと会ってなかったもんね…だから今度こそ皆で会えるようにって企画したんだもんね」
「そう。だから越前が来てくれて本当に良かったよ」
「俺…先輩達に悪いことしたのに…どうして…」
「そりゃあ皆おチビが好きだからに決まってんだろ〜!?悪いって思うなら今日は存分に酒でも呑んでけっての!!」
グラスにとぷとぷと注がれる。
そこでササッと何か不明なものを混入させたのを見逃さなかった俺は、その犯人の腕を掴む。
「乾先輩!」
「なんだ…もうバレてしまったか。やはり俺ではなくて怪しまれない大石やタカさんにやらせるべきだったな」
「勘弁してくれよ、乾」
「全くだよ…」
俺は楽しくて思わず大笑いした。
俺が大口を開けて笑うもんだから、もう酒に酔ったのかと勘違いされた。
俺、苦手じゃない。
実はこういうの大好きなんだ。
皆がいるとやっぱり楽しいや!
でも…この言葉は心の中にしまっておくけどね。
