U-17合宿中の中学生たち。
日差しは夏よりも厳しさはなくなり秋のにおいを感じさせてくれている。
その中で急きょ始まった同志討ち。
それにより彼ら中学生たちは二つのグループに分かれることになった。
気を落とす者もいればそうでない者もいる。
彼は密かに喜んでいた。
喜んでいる彼の名は、不二周助。
彼は淡い恋心を持っている。
一度もそれを表に暴露したことはない。
今後もする予定などはなかった。
この時点では。
大石と離れてトレーニングすることになった英二は今もあまり元気のない表情でいた。
あのとき本気で試合に挑んだ英二であったが未だ心の整理ができていないように思われる。
不二はそっと英二に近付いて声をかけた。
「あ…不二」
「元気ないね。やっぱり…いないのは寂しいんだね」
いつものスキンシップで英二の頭を優しく撫でた。
ふんわりとした赤い髪は不二の指に絡みついている。
英二の触れられたくないといった様子はわかっていた。
だからこそ地雷を踏まないように、あまり相手の中に介入しないようにと不二は気遣いをするつもりだった。
しかし本人を前にすると消極的な態度になれない。
こんな状態で放置しているのだから大石には恋人であると名乗る資格なんてないとさえ不二は考えていた。
そう、英二は大石と付き合っている。
これは周囲には知られていないことだ。
だが英二は恋の相談役として不二にだけ大石と付き合っていることを話していた。
初め不二がこの話を聞いたときは心臓を銃か何かで撃ち抜かれたようなショックを受けた。
立ち直ることさえできない状態だった。
だが不二にだけ教えたということはそれだけ英二は不二のことを信頼していたということだ。
不二はそう自分に言い聞かせて、今も良き相談相手として英二の話に乗ってあげている。
「俺…甘えてばっかなんだよなー。改めていないって思うと…すんげえ来るよ」
「気持ちはわからないでもないよ。手塚もドイツに行ってしまってから…なんだかポッカリ心に穴が開いたみたいな感じだしね」
「不二は…手塚がいなくなっちゃって寂しい?」
「そりゃあ寂しいよ。僕たち青学の柱だった手塚って存在がいないのは大きいだろう?」
「そうじゃないよ…恋愛対象としてさ。どうなんだよ?」
英二は勘違いをしている。
不二が手塚を好きだと、そして今もなお追いかけているのだと思い込んでいるのだ。
以前もそんなことを言われた。
すぐに否定をしたはずだったが英二の中では不二→手塚という公式ができあがっているらしい。
不二は苦笑する。
まさか自分のことを好いているなどと考えていないのだから。
面白そうに笑いながら英二を見れば、何故笑っているのだろうと首を傾げながら英二は不二を見つめている。
「不二?」
「ふふ…なんでもないよ」
勝ち組に残った青学のメンバーは不二と、そして英二だけだ。
こんなチャンスは滅多にないだろう。
不二は決めていた。
自分の思いを英二に伝えようと。
たとえ駄目でもやってみる価値は十分にあると思えた。
練習の区切りがついて休憩に入ったとき、不二は木陰で休まないかと英二を誘った。
英二は驚き慌てふためいた。
先ほどまでゆったりと会話をたしなんでいたはずの相手に組み敷かれる羽目になっているからだ。
ここは日陰になっていて人気も少ない場所だ。
おそらく誰もここを通ることはない。
大声を出して助けを呼ぶことも可能ではあるが、衣類を纏っておらず半裸状態でありとても誰かを呼べる状況ではなかった。
涙目になりながら不二に訴えようとする英二。
抵抗しても無駄であり不二には一切敵わなかった。
「ふじっ…いやぁ…」
「大石ともこういうことシテたんだろう?僕とするのだってイヤじゃないよね?」
「だって…不二にはっ…手塚がぁっ…!」
「手塚にどうしてそんなにこだわるの?確かに僕は手塚とよく喋っていたけど君が思ってるような感情を僕は手塚に対して抱いてなんかいないよ」
U-17ジャージは地面に投げ出され土が付いたまま放置されている。
英二はポロシャツを上まで捲くられていて日焼けしていない白い肌が垣間見えている。
だが。
肌の表面にはいくつかの古い痣が残っている。
それは首回りを中心に、そして胸の突起付近にも多く見られた。
不二はその様子を見て口角を上げる。
「たくさん…たくさん愛されてるんだね…英二は」
「ひゃうっ…い、いやだ…っ…見ないでぇ」
「ねぇ英二。僕が上書きして愛してあげるよ」
「不二くんが見当たらないね。それに菊丸くんも。二人ともどうしたのかな」
誰よりもいち早く二人がいないことに気付いたのは同じ6番コートの幸村だった。
試合はないので問題はないと思いつつも二人ともいないとなれば後々何か聞かれる可能性はあるだろう。
自分には関係のないことであるが、特に同室である不二に関しては気になっていた。
そこへ跡部、忍足、鳳の氷帝メンバーも口を挟む。
「何やってやがるんだ…あいつらは、アーン?越前といい、青学はだらしねぇな」
「菊ちゃん…何かあったのかもしれへんなぁ。大丈夫やろか」
「少し休憩を取り過ぎているだけかもしれませんよ?戻って来なかったら報告した方がいいかもしれませんが…」
幸村はうーんと唸りながら手を顔に添えて悩むようなしぐさをしながら考え事をしていた。

※2は裏の内容となっているため飛ぶようになっています。
次は3話目になっております。(2は飛ばしても読めるようになっています)