不二が生きていて本当によかった。
俺のせいなのに不二は俺のことを悪く思っていなくて。
本当にどこまで優しいんだろうと思った。


それなのに週刊誌は酷い書き方しかしていなかった。

『最初から対象として見てもらえなかった妻の苦痛、日々の暴力・暴言を激白!』
『私は騙されていた…憎き不倫相手の男を刺した達成感』
『妻の叫び!子育てに専念するため仕事をやめたのに…一度もセックスをしてくれなかった本当の理由』


明らかに世間は俺達に味方してくれなかった。
わかってはいたけど…根も葉もない話を長々書かれたらいい気分にもならない。

俺は妻を日々精神的に追い詰め、時には暴力を振るったとまで書かれていた。
一度も手なんてあげたことないのに勝手に書くんだ…。

不二に至っては、女に扮して俺を妻から無理矢理に奪ったなんて書いてある。
さすがにこの記事には吹いてしまった。
不二がいつ女の格好をしたっていうんだ。

でも世間はこれらを鵜呑みにするんだろうね。
だけど白い目で見られるのなんて今だけ。
しばらくしたら皆すぐに忘れるんだ。
世の中にはまた違う事件が起きるんだから。






俺は毎日病院へ見舞いに行った。
ちなみに不二の担当医はなんと偶然にも大石だった。
そう、あの大石が本当に医者になっててびっくり!
今は大きな病院で働いているけど、ある程度経験を積んだら町医者をやりたいらしい。
大石らしいね、と俺は言った。







「不二の容態は安定しているから…このまま入院すれば順調に回復するさ。しかしお前達も大変だな」

「そう?俺は不二がいればなんじゃらホイホ〜イって感じだよん!ね、不二!」

「あぁ、もう終わったことさ」






大石はまた別の患者を診るために病室を出た。
忙しい中でもちょっぴり話ができたのはよかった。
昔の仲間にまで見放されたら辛すぎるし。






「ところでさ…英二、マスコミとかに追いかけられたりしないの?」

「ないない!今新たに殺人事件起きたじゃん?バラバラのやつ」

「あー…看護師さんが言ってたな。二人だっけ?世の中物騒すぎるね」

「だから俺達になんてもう興味ないよ。こっちは殺人未遂だし」








持ってきた花を花瓶に挿した。
水も後で入れ換えなきゃ。






「ありがとう、英二。毎日君が来てくれて僕は本当に幸せだ。今は入院生活だけど、治れば英二と暮らせるもんね…本当に夢みたいだ」

「うん!離婚の手続きも終わったし、今本当に自由なんだよね。仕事もクビになったし、なんにも縛られてない!!」

「仕事がないなんていいことじゃないよ英二」

「あれ?そーだった!えへへ〜」






俺は正式に離婚することができた。
元・妻は殺人未遂容疑で逮捕され、刑務所にいる。
俺も警察に取り調べをされ、同じ話をなんべんもして、漸く解放された。
長くかかったけどその頃には不二も退院することができた。








不二と一緒に外に歩くのはものすごく久しぶりだと思った。
不二も外の空気を吸うのは新鮮だと言った。
ずっと病院にいたんだから当たり前だよね。


俺達は人目も気にせずに手を繋いで歩いた。
すれちがう人達が驚く表情をしたって俺は構わない。
不二もそう思ってる。
もう人目なんて気にしちゃいけない。
自分に正直になることは悪いことじゃないんだ。






「そういえばね、今やってた仕事…僕も解雇処分にされたんだ」

「…やっぱし?だよね〜…」

「だからさ、英二。僕と一緒に別な場所へ移り住まないかい?新たなスタートとして」

「あっ、うん!いいね、それ!」






つまりは転居だ。
違う場所で新しく生活を始めることはいいかもしれない。
今はなんとか貯金もわずかながらにある。
ボロいとこでも住めればいいし!
考えただけでドキドキしてきた。
だって不二と同棲できるってことだもん。
すごく嬉しい!!






「英二、僕についてきてくれるかな?」

「もち!」






俺は一生を不二と共にしたいと思った。
たとえ不二が俺に愛想尽きても俺は絶対ついていくと決めた。
ま、不二が愛想尽きるなんてことは有り得ないって信じてるけどね!

俺達はどんな苦難があっても二人で乗り越えられるって信じてるよ。