英二は溶けかけたアイスを食べている。
口の回りを汚して食べていて子供のようだった。
可愛い。
でもこんな思いもきっと君には届かないんだろう。
25にもなって告白もできませんなんて…笑い話もいいところだ。








「英二、不二、そろそろ店じまいだ。あとは19時以降に」

「そうだね…英二、出ようか」

「え?もう店じまい?19時以降って?」

「この店19時以降はバーになるんだよ。だから喫茶店はこれでおしまい」






英二は最後のアイスをぺろりと食べるとティッシュで口を拭った。
なんとなくいけない想像をしてしまったけど、それはなかったことにした。

支払いを済ませて乾と少し話したりウェイターの彼女とも話した。
最後に礼を言ってから店を出た。






「あ〜美味しかった!不二、サンキュー」

「喜んでもらえてよかったよ。また今度行こうね!」

「うん!…あ、あのさ」






英二が何かを言いかけた。
気になって僕は英二に聞き返した。
なんでもない!の一点張りなので僕は英二の肩を掴んで言った。






「言いかけてやめるなんて気になるじゃないか!何なのか言って!」

「う…。えっと…その…今日不二ん家行っちゃダメ?」






突然で僕は動揺した。
いや、家に来てもらうことに問題があるわけじゃない。
僕は一人暮らしだし、何の問題もない。
むしろ来て欲しい。
けれど…この時間帯だし今から来るってことは僕の家に泊まるのかも?
英二が泊まっていったら…と考えるとおかしな妄想が始まってしまう。
その前に英二に理由を聞かなきゃ。







「僕はいいけど…奥さんは?帰りが遅くなっちゃうけど…」

「奥さんには連絡しとけば大丈夫。できれば泊まりたいの…ダメ?」






すごく嬉しかった。
まさか僕の所に来てくれるなんて…。
でも奥さんがいながら僕の所に泊まりたいってことは何か理由があるんだと思った。
話があるならメールなり、また別な日に会うなり方法はあるのに。







「英二…何か悩みでもあるんだね」

「…聞いてもらうだけでいいから。急にごめん…」

「いいよ、行こう。僕も話し足りないし」






英二はにっこり笑うと携帯を取り出し、奥さんに電話をした。
あっさり電話を済ませると英二は溜め息をついた。
僕の単なる勘だけど、もしかして英二は奥さんと上手くいってないんじゃないかと考えた。

僕の心の中に住む悪魔が言った。

“離婚してくれればいいのに”













僕の家に着いた。
正式には安アパートだ。
家ってより部屋。
せっかく英二が来てくれたのにかっこいい所を見せられなくて残念だ。








「上がって。汚くてごめん」

「ううん、いいの。ホコリ一つない所より落ち着く」






英二はぺたんと座布団に座った。
なんだか元気がなくなった感じだった。
何か声をかけたかったけど何を言ったらわからなかった。
とりあえずお茶を出してあげた。






「不二…気遣わなくていいよ。俺…ね、ちょっとおかしいんだ」

「おかしいって…どういうこと?」

「ん…俺、あんまり奥さんと上手くいってなくてさ」






まさかのビンゴだった。
いや、さっきの様子じゃ誰でも簡単に予想できたかもしれない。
心配してあげなきゃいけないのに心の中で喜んでいた僕は最低。






「不二に相談していいか迷ったの…でも話せる相手…不二しかいなくて」

「うん…」






湯呑みに口を付けた英二は何かを躊躇っていた。
言い出したいけど言い出せない、といったような…。
僕はさりげなく英二の手を握った。
いやらしい意味ではなく、真剣に話を聞こうとする姿勢を見せるためだ。

微かに手を震わせていた英二はゆっくり口を開いた。






「俺…奥さんと…セックスできないんだ…」






この一言を言うためにはきっと相当な勇気が必要だっただろう。
英二はこのためにずっと悩んでいたのかと思うと、僕が早く言葉をかけてあげるべきだったんだ。

そうだ、やっぱり間違いじゃなかった。
君も僕と同じだったんだ。






「…英二、それはおかしいことじゃないんだよ」