俺は理解できなかった。
不二の反応が俺の思っていたのと違っていたから。
きっと引くと思った。
それなのに不二は間違ってない、とかおかしくない、とか言う。
何が言いたいのかわからなかった。
「どういうこと?俺は変なんじゃないの?」
「変じゃなくて女の人が好きになれないんだよ。僕も…同じだからよくわかる。一つ聞きたいんだけど…英二はさ、童貞?」
「え!?」
不二ってばいきなり何を聞くのかと思ったら…。
言うのは恥ずかしかったけど隠しても仕方のないことだから正直に言った。
不二はゆっくり頷いた。
「でも…俺…」
「…信じたくない?自分のこと」
「信じたくないわけじゃないけど…でも…今でもよくわかんない。だって…」
不二は自分が納得できるまで悩むことは悪いことじゃない、と言ってくれた。
俺は自分自身についてもう一回考えてみることにした。
でももう一つ驚いたのが不二も同じ、ということだった。
不二は自分自身のことをちゃんと理解していたんだ。
俺ももっと早く自覚するべきだったんだ。
気付かなかったなんてバカみたい。
自分のこと、わかってたら今結婚なんてしてなかったんじゃないかと思う。
…そんなこと言ったら奥さんに悪いけど。
「ところで…英二は今結婚生活楽しくないの?」
「わからない…最初は楽しかった。でも最近はやたら子づくりしたがってる。それが嫌なんだ」
「今の法律に基づけば…子供に対して、互いの考えに相違点があるなら離婚の正式な理由になるんだよね。英二、考えてみたら?」
「り…りこん…」
離婚という言葉に重みがあった。
結婚したときは何も深く考えたりしなかったのに…。
戸籍に×がつくのが嫌とかそういうことじゃない。
気軽に離婚に踏み切れなかった。
奥さんにだって…なんて言ったらいいのかもわからないし…。
悩んでいると不二は優しく俺を抱き締めてくれた。
いきなりだったから心臓がどきっとした。
さらさらなびく髪からほのかな花の香りがした。
シャンプーかな、すごくいい香り。
「すぐに決断なんて無理だよ。君は時間をかけて考えればいいさ」
「う…うん…」
何故か身体を離してくれなかった。
不二は寒いのかなって思ったけど、普段そんなことするような性格じゃないし…だんだん締め付け方がきつくなってきた。
少し苦しい。
「ねぇ…英二…」
甘い声が俺の耳元で囁く。
なんで自分の心臓がこんなにもドキドキしているのかわからない。
奥さんにされたときは何も感じなかったのに。
不二はあと数センチで唇がくっついちゃいそうな距離で俺を見つめた。
これ以上見つめられたら口から心臓を吐き出してしまう。
退けようとしたけど不二はかなりの力で俺を押さえ付けている。
痛い。
「僕と…付き合おう」
「…え?」
不二が何を言ってるのかわからなかった。
頭に響いたはずなのに意味の理解ができない。
不二も心なしか俺と同じようにドキドキしてる気がする。
でも不二の視線は真剣そのものだった。
嘘なんかついてなくて、ただ俺だけ見てる。
「英二…ずっと…好きだった…僕は…頭の中から君がいなくなったことがないんだ。約10年が経ったけど…この気持ちは変わらない」
「不二…でも俺…奥さんが…」
「僕のことは遊びでいい。奥さんには内緒にして…君の都合のいいときに会うだけでいい。離婚とか今は何も考えないで…僕と…」
「あっ…ふ…不二…まだ…俺……!」
「こうすれば英二の答えはすぐ出るよ…」
不二は俺のシャツに下から手を入れた。
冷たい指が肌に当たって気持ちよかった。
押し倒されても抵抗できなくて、されるがままだった。
ビデオとかで見たことのある行為…そう、兄ちゃんが持ってきたヤツにあった。
俺はそのまま不二に抱かれた。
誰にも言えない秘密を…作ってしまった。
俺は不倫をしてしまったんだ。
