不二のカラダは冷たいのに、俺を抱き締めるとどんどん熱が上昇していく。
気持ちがよくて開放的になる。
この時間が止まってしまえばいいと何度願ったことだろう。
俺達は週三回このようなことを繰り返していた。
「あ…んっ!あっ…あっ…あぁッン!!!」
「英二…今日イイね…どうしたの…?」
「俺っ…おれ…すっごい…不二が…好き……どうしよ…」
「僕も大好きだよ…」
身体の感覚が忘れられなくて気持ちよさがずっと残ってる。
またシたくなる。
俺病気かもしれない。
「だんだん英二も慣れてきたみたいだよね」
「うん…すごく好き」
「…エッチが?」
「ち、ちが…!ふ、不二のことが好きってこと!!あ…もちろんエッチだって好きだけど…」
「…英二って変態だね」
「え?!」
「嘘だよ…フフッ…」
楽しく会話もして何不自由ない時間を過ごしてる。
でも不安に感じるのはひっそり密会をしているせいかな。
この関係を続けるのは楽しい反面、後ろめたさがある。
当たり前だけど最近外泊が多いから奥さんが俺を疑い始めた。
女がいるんじゃないか、と思っているらしい。
残念ながら女じゃないけど、性別関係なしに浮気したらやっぱり俺は悪いんだ。
そう考えると不二とヤってたことに不安を感じてしまった。
「また何か考えた」
「えっ…な、なんでもない…」
「なんでもなくない。どうしたの?英二…エッチした後っていつも何か考えてるよね。奥さんが気になるんだ?」
俺は内心ドキリとした。
見られたくないものを見られてしまったような、そんな感じだった。
隠しても不二にはきっと見抜かれる。
俺は奥さんのことを話した。
「そう…まぁ普通なら考えるだろうね。僕は英二に迷惑をかけるつもりはないんだ。しばらく会うのはやめようか」
「え?!や、やだ!不二がいなきゃ嫌!俺…ちょっと日が空いただけで身体が落ち着かなくて…だからっ…!」
「わかったよ…英二がそこまで言うなら」
そう、俺はこの腕に抱かれていたい。
離れたくないし、帰りたくないし…ずっとこのままだったらいいのに。
俺はまた不二と一緒に果てた。
毎回朝帰り常連の俺は奥さんの様子がおかしいことに気付いた。
声をかけても反応がないんだ。
常にうつむいていて俺を見ようとしない。
食事も作らなくなり、夫婦という形は壊れつつあった。
何も話さなくなった奥さんが今日は珍しく口を開いた。
「また…女のところでしょ」
「…女じゃないよ」
言葉遊びみたいだけど嘘は言ってない。
俺が行く先は女じゃなくて男のところだから。
でもあえてこれ以上は何も言わない。
関わって話すだけ時間の無駄だし、お互い嫌な思いをするだけだ。
俺はすぐに寝室に向かった。
もう離婚した方がいいのかもしれない。
朝起きてテーブルのメモを見ると、用事があるから出かけているとの内容が書かれていた。
こんな朝から珍しいと思いつつ、奥さんがいないことに安堵を覚えた。
朝食は自分で作り、食べた。
一人の方が気楽なんて思っちゃいけないのかもしれない。
でも気楽でストレスも感じなかった。
食事を終えて携帯を見ると不二からメールが来ていた。
今から来れない?と書いてあった。
すぐ返信した。
今行くね、と。
仕事があったけど今まで使わなかった有休が残っていたから別にいいや。
不二の家に向かう途中、歩いているとジョギングをしている人と肩がぶつかってしまった。
見るとなんと海堂だった。
「お〜っ!海堂じゃぁん!」
「久しぶりっすね」
「今でもジョギングしてるんだ〜?」
「はい…まぁ」
体を鍛えることは今も好きらしく、よくこの辺でジョギングをするらしい。
今まで会わなかったことが不思議なくらいだった。
てっきり引っ越しとかしてるのかと思っていたけど、それもしていなかったみたいだ。
今日は仕事が休みだったらしい。
仕事は動物好きの海堂にふさわしいトリマーだとか。
見掛けによらず可愛い仕事をしているなぁと思った。
「菊丸先輩はこれから何処に行くんすか」
「不二ん家!遊びに行くの〜」
「不二って…あの不二先輩っすか?今も仲いいんすね」
「まぁね♪あっ、でも会ったのなんて最近なんだー。久々の再会ってやつ!あっ!そういやこの間乾にも会ったんだよ!」
俺は言ってからしまったと思った。
海堂は中学時代に乾と付き合ってたのに別れたんだった。
うっかり…やってしまった。
「そっすか…あ…俺そろそろ行きます。じゃ…」
「えっ…あ、うん、じゃあね」
気まずい思いをさせちゃった…。
海堂…ごめん…。
俺ってばたまに余計なこと言っちゃうんだよね。
気を付けなきゃ。
不二の家の近くまで行くと不二が手を振って待っていた。
俺も手を振り返した。
