私は英二の妻。
同じ保育園で働く同僚だった。
私は彼を見てから、この人が将来のパートナーになってくれたらどんなに幸せになるだろうと思った。

でも…なれなかった。
今の私はたった一人ぼっち。
掃除をして、洗濯をして、ご飯も作って、ただ彼を待っている。
でも夜にメールが来て、今日も友達の家に泊まるって。
私、何のためにいるのかわからなくなってきた。

たとえ帰ってきても何も話さない。
英二の方を見ても視線はテレビに夢中で私を見てなんかくれない。

でも…だからって別れたくない。
なんだか負けた気がするの。
このまま引き下がれるほど私は弱気じゃない。
だったら英二の言う“友達”とやらを探って突き止めるしかないと思った。
こんなの誰が見たって浮気だから。


私はある日の朝、早くに出かけた。
英二には何も声をかけなかった。
何で出かけたかなんて、きっと英二は気にもかけない。
どうでもいいこと、いやむしろいなくて嬉しいと思っているはず。
考えていたらまた悲しくなってきた。
もう考えるのはよそう。

私は探偵事務所に向かった。
探偵を雇うより自分で確かめればいいと言う人もいるかもしれない。
私もそう思って英二が何処に行くのか自分で突き止めるはずだった。
でも尾行すれば気付かれ、勤め先で待ち伏せすれば来ないことが多かった。
あの人、仕事にすら行ってないんだって思ったら腹が立って仕方がなかった。

効率が悪くてなかなか真実を突き止められない私はプロに任せることにしようと考えた。
ちょっと価格が高いけど自分で調べるよりは安全だし。



その探偵事務所に向かう途中、歩いているとジョギング中の人とぶつかってしまった。







「ご、ごめんなさい!」

「いや…こっちこそすいません…」








落としたタオルを拾って渡すと丁寧にお辞儀をしてまた走っていった。
今の人…私と同じくらいの年齢だったのに礼儀正しかったな。














事務所に着き、探偵と話して依頼をした。
英二の行動を調べてもらうことにした。
浮気の相手がどんなに美人であっても英二は私の夫。
絶対に渡さない。













探偵には散々釘を刺された。
浮気相手と思われる人物が現れても、1対1でやりあうようなことはないように、だって。
必ず話し合うなら旦那様もご一緒にって。
二人だけで会った人は大抵何か問題を起こすらしい。
問題って何のことだろう。













「ただいまー…」








英二が帰ってきた。
私は夕食の支度をしていた。
今日はわりと早く帰ってきた方だと思った。
でも私はおかえりなさいの一言もかけなかった。
全てが嫌になる。
仕事に行ったつもりで帰ってきたのだろうけど、保育園に電話したら英二は有休とってるって言われた。
今日は仕事になんか行ってないのに…一体何処に行ってたの?






「な…何やってんの!?」

「え?…やだ、自分の手切ってた私!あははっ…」






左手の甲は包丁で刻みこまれていた。
まな板は血まみれになっていた。
英二はすぐさま私の手を水道水で洗い流す。
英二は私の手を応急処置してくれた。
私のこと、どうでもいいと思ってたのに…こういう状況だと英二は慌ててくれるんだね。
なんだかすごく嬉しかった。






「お前危ないだろ!?ぼうっとしながら包丁なんて握るなよ!疲れてるなら俺が支度するのに。俺がやるから休んでなよ」






英二が優しい。
こんな気持ちになったのは何ヶ月ぶりだろう。
やっぱり私は英二が好き。
離したくない…離れてほしくない!!






「…な……」

「ねぇ結婚したときのこと思いだそうよ…私達、いいカップルだって言われたじゃない。今…こんな溝があるけど二人でだったら乗り越え…」

「やめよう、その話。俺、今そういう気分じゃないし…」

「なんで…いいじゃない」

「何度も言ってるじゃん…俺…したくないから」






相手にしてもらえない。
どうしたらいいの。
やっぱり私が魅力ないの?
だって聞いたことないよ…結婚してもう何ヶ月も経つのに抱いてもらったことがないなんて。
おかしいよ。


夕食を作ると英二はいつものようにテレビのスイッチを入れた。
私に優しくしてくれるのは怪我をした時だけなのね。






わかった。