俺は連絡を聞いて開いた口が塞がらなかった。
彼女が車にひかれたなんて。
しかも自分から飛び込んだという。
信じられなかった。
なんでそんなことしたんだろう。
死にたかったってこと?
わけがわかんなくて俺はとりあえず搬送された病院へ行った。


教えてもらった病室へ行くと彼女がベッドに横たわっていた。
幸いにも軽傷で済んだらしい。






「…よかった。来てくれて」

「当たり前だろ?!なんでこんなことしたんだよ?!」

「私…一人になりたくないの。ずっと側にいてよ…」

「……」






俺は困った。
まさかこんなことになると思わなかったから。
折り畳んである離婚届がひっそりポケットに入っていることは言えなかった。


面会時間が過ぎ、俺は家に帰った。
奥さん、明日には退院できるらしい。
飛び込んだ理由は聞けなかったけど、俺に心配してもらいたいんだってことはわかった。

悪いのは俺だけど…俺が彼女を振り回して、ノリで結婚したからこんなことになったのはわかってるけど…。
もう奥さんと結婚生活はやめたかった。
奥さんが元気になったら離婚することを言おう。













翌日奥さんが退院した。
俺が心配してくれたことが嬉しいのか、終始笑顔だった。
俺は言い出すのが難しかった。






「ねぇ英二、私今日の夕食外で食べたい。いいでしょ?」

「…う、うん」








何をうろたえているんだ。
言わなきゃいけないのに言えない。
手の平は汗まみれだった。
彼女は外食を何処に食べに行こうか悩んでいる。
俺は離婚の旨を伝えられず悩んでいる。

結局、俺は奥さんには何も言えなかった。













夕食はファミレスで食べることにした。
皿を運んできた店員になんとなく身に覚えがあった。







「プリプリエビフライ付ハンバーグセットでごさいます…んあ〜!?英二先輩!!」

「やっぱ桃だ〜!久しぶりじゃん!」

「英二先輩!こんなとこで会うとは思わなかったっす」

「桃はここでバイトしてるんだ?」

「えぇまぁ…就職が上手くいかなくて今フリーターなんすよ。でもこれから仕事見つけるつもりっす!」

「そっか〜桃も苦労してるんだね」






仕事中だったからこれ以上話せなかったけど、最近中学時代の仲間に会えて嬉しいなぁ。







「英二は…」

「え?」

「英二の周りには沢山の人がいて羨ましい。この間寿司の出前とったら英二の友達だったし」

「あぁ、タカさんね。うん、河村寿司は昔から馴染みがあったし」

「愛されてるね英二」

「ん〜そうかにゃ…」






俺は彼女との会話は相槌を打っているだけだった。
何も聞いていない。
だって…いつ離婚を言えば…






「私、離婚なんてしないからね」

「っ…!!?」






心を読まれたかと思う程タイミングよく“離婚”という言葉が出てきた。
俺はドキッとして言葉を発することができなかった。







「あなたが離婚届を持っていることはわかっているの。でも私そんなの書く気ないからね」






なんで知ってるんだろ。
ただ漠然と言っただけなのかもしれない。
ハッタリ?
でも奥さんは真実を言い当てたんだ。
…俺のことなんてお見通し、ってやつなのかも。













不二と会う回数は確実に増えた。
もう俺は不二の家に通っているみたいだった。
それでも彼女はとがめることなくただ離婚はしないの一転張り。

どうしたらいいのかわからない。
本当に…どうしよう。