大石が桃と試合をしている間に僕は部室へこっそり入った。
目的はただ一つ。
大石のバッグを拝借し、中を探る。
自分が最悪なことをしているのはわかっているけど、二人きりになるためには仕
方のないこと。
悪いね、大石。
「あった」
探し当てたさっきのライブチケット。
これは僕が預かっておくよ。
これで英二と三人で行く話はおしまいだ!
「何してんの、不二」
「英二?!い、いや…なんでもない…」
必死に誤魔化したけど慌てたら隠しきれなくて、手からチケットが落ちてしまっ
た。
英二はそれを拾う。
「不二、これ…大石のでしょ?」
「う…」
「ひどいね…不二。チケット…取ってどうするつもりだったの?」
「英二…?」
英二の目から涙が溢れた。
うそ…まさか…僕が英二を泣かしちゃった…?
どうしよう…どうしよう…!!
「ふぇ…大石だって…楽しみにしてたんだよぉ…!」
「ごめん!その…二人きりに…なりたくて……三ヶ月記念してないし…」
「そ…そうなの?」
「ごめん…英二…僕サイテーだった…」
英二は涙を手で拭うと大石のチケットをバッグに戻した。
そして、英二は僕の腕を引っ張っていく。
僕を何処に連れていくんだろう…?
「大石!」
英二はちょうど試合を終えた大石に話しかけた。
汗を拭う大石は何があったのかとオロオロする。
当たり前だ、涙を流した英二は真っ赤な目になっていたんだから…
これも僕のせいだ…
「ライブの話なんだけど!やっぱり不二と二人で行くね!ごめんね、大石!!」
え…英二?!
まさか…三人で行くの…本気でやめてくれるの?
こんなの…僕のワガママなのに!
「英二!もういいよ…!」
「だって!三ヶ月記念してないもん!不二悲しむの見たくないもん!俺だって不
二と二人で行きたいもん!!」
「英二…!!」
皆が見ているのを忘れて僕らは抱き合った。
他の皆は状況を理解できず、ポカーンとしていた。
でも…そんなのはどうでもいいんだ!
英二が僕の気持ちを理解してくれた!!
英二も僕と同じ気持ちだった!!
嬉しいよ!
「…ごめんね、不二の気持ち考えなかった俺が悪いの」
「そんなことないよ…英二は思いやりのあるいい子だよ」
僕は英二とキスをした。
上手くやれば事に運べそうだったけど今回はやめよう。
まだまだ日はあるんだし、また今度でもいい。
二人でライブに行けるのが本当に嬉しくて、他のことなんてどうでもいいと思っ
ていた。
英二と僕はライブを楽しんだ。
楽しい一日もあっという間に終わってしまう。
「楽しかったね!ライブ!」
「うん!」
さぁ、これからが問題なんだ。
今は夜中。
ただ帰るなんてことはありえない。
じゃあどうしようか。
「ねぇ…今から不二の家…行ってもいい?」
キタ──────!!!
ついに!この日が!!
「当たり前じゃない、おいで」
「えへっありがと〜!」
うわっ…掌が汗ばんできた…。
だって…僕…初めてだし…
いやイメージトレーニングなら何度もやってるけど…
でも緊張しちゃって…
「俺いいもの持ってきたの、不二も…しよ?」
いいもの!
いいものって何?!
まさか…コスプレの衣装とか?!
英二…なんて準備がいいんだ…。
信じられないよ…英二がそんなに意欲的だったなんて…。
僕はさっきから緊張ばかりで全然いい所を見せてないよ。
あぁ…もっと男らしくしなきゃ!
「へぇ…楽しみだな。早くその“いいもの”が見たいね…」
「うんうん♪それじゃ不二の家にGO〜☆」
手を繋いで歩く帰り道、僕はどうしようかと頭の中で復習していた。
