英二と一緒に歩き、向かった先は自分の家。
自分の家に帰るだけで、これほど緊張した日なんて今までになかった。
英二に悟られないようにしていたけど、手はビチョビチョだ。

情けない…







「不二の家って何度も来てるのに今日は緊張しちゃう!だって俺、初めてだも〜 ん!」

「(英二も初めてなんだ!)そんな…僕だって初めてなんだからさ、緊張なんて …しなくていいんだよ?」

「そう、かな?」

「うん…二人で…ゆっくり慣れていけばいいと思う」







運のいいことに今日は家族が皆出払っていた。
こんなチャンスは滅多にない。
今日は決して無駄にはできない…。

そう、つまり今日でキメなきゃいけないんだ。








「お邪魔しまぁす!」







英二を僕の部屋へと誘導し、お茶の用意のために僕は下へ行く。
手が震えてる…どうしよう…。
いやいや!そんなこと言ってる場合じゃない!
僕がしっかりしなきゃいけないんだから!
はぁ…行くぞ…

勇気を出して!!

僕はドアを開けた。









「お待たせ…って…あれ?」

「あっ許可も取らないでごめんね〜、今のうちに準備しておいた方がいいかなぁ って思ってさ」

「え…それって…」

「新しいゲーム機買ったって言ったじゃん!これでテニス対決しよ?ほい、リモ コン」







ドアを開けたら英二がチャイナ服を…とか
メイド服を…とか
ではなく、英二の“いいもの”とはゲーム機のことだったらしい。

え!?
じゃあまさか初めてとか緊張ってのは…







「うわぁ…リモコンを振るって…あ!すごいすごい!見て見て〜!ボレー出来た !!」

「え…じゃあ僕の勘違い…」

「わぁい!楽しいっ♪ほら、不二もやろうよ〜!楽しいよ?」







肩の力が一気に抜けた…。
信じられない…てっきり英二とイメクラごっこだ〜とか考えてたのに…。
ガックリ。

いや、英二は何も悪くないんだ。
勘違いしたのは僕の方…
僕の頭はヘンタイだ…























「あ〜楽しかった!」

「…うん」

「不二ってばあっさり負けちゃってさ!本気でやったら俺になんて簡単に勝てる くせにぃ」

「そんなこと…ないよ」

「テンション低い〜!どーしたの?不二…あ、わかった!お腹すいたんでしょ? 」







今から出前取ろうよ、と英二は電話し始めた。
なんでそうなるの…お腹なんて…空いてはいるけど今どーでもいいよ…。
大体こんな時間に出前って…。







「やぁ!不二に英二!注文ありがとう」

「あっれぇ?タカさんじゃーん、どうしたの?」

「どうしたもこうしたも電話してくれたじゃないか。はい、十人前!」

「「え?」」







びっくりした。
タカさんが持ってきてくれたのは十人前の寿司だった。
しかも…タカさんは僕が注文したって言うけど、僕は電話してないし。
それに英二が出前取ったのはピザだって言うし。

一体どういうこと?







「それ本当に僕だった?違う人と間違えてるんだよ、タカさん」

「声は不二だったよ、名乗ったじゃないか。“もしもし、不二ですが今から寿司 を十人前注文したい”って」

「そんなわけないよね!?不二は俺の横にいたもん!」







食い違う話…これは何か嫌な予感がする。
十人前も出前を取るあたり、僕に対する嫌がらせとしか思えない!
一体誰がこんなことを…







「ところで…このお寿司どうするの?いくらなんでも二人じゃ食べきれないよね 」

「じゃあみんなを呼ぼうよ!テニス部!ね!!」

「え!!(また二人きりになれない!)」

「桃とかおチビならいっぱい食べてくれそうだし〜♪いいよね!」







ここで反対できるわけもなく、声を掛けたテニス部メンバーに来てもらい、急遽 お寿司パーティが開かれることに…

どうして…
どうしていつも…







邪魔が入るんだぁぁぁぁぁ───!!!!!!















「不二先輩どうしたんっすか?」

「元気ないんだよね〜なんでかなぁ?」







もぐもぐ食べている越前と英二が会話しているのが聞こえた。
僕はその会話に入れるほどの気力はなかった。







「それにしても酷いイタズラっすよね。誰がこんなことしたんすかね」

「おチビも考えて!不二が可哀想なの!」

「…意外に身近にいるかもね」









声が似ていた…身近にいる?
まさかとは思ったけど僕は顔を上げて越前を見た。







「きっと宣戦布告っすよ…独り占めするな、っていう」

「え?え?おチビどういうこと?」







僕は越前を見張った。
なるほど…君も僕らの関係を認めない組ってことだね。


僕と越前はバチバチと火花を散らせた。