テレビに映る人物は紛れもなく山男子だった。
あのオークションで最終判断会場にいた…俺がスタッフと間違えたあの男だ!
手塚国光と呼ばれている彼はフラッシュの嵐に巻き込まれて騒然としていた。
タイトルのフリップには『噂の恋人との生活に終止符!?』と書かれている。

芸能ネタは最近疎くてわからない俺は頭の周りにハテナが沢山浮かび上がった。
すると店から頭の禿げ上がった店主らしき人が現れた。






「いらっしゃい。テレビ、今安いよ〜」

「あ、買おうと思ってたわけじゃないんで…」

「いやいや、こっちも売り付けるつもりはないよ、まだ開店前だからね。はっはっは」






そういやそうだった。
まだ朝なのに店なんてやってるはずないんだよなぁなんて思いながら、俺は店主に聞いてみた。






「あの、すみません。手塚って人はタレントさんですか?」

「は?!何を言ってるんだね、日本を代表するテニスの選手だよ。君、若いのに知らんのかね?」

「はぁ…最近テレビ付けるのも億劫で…」






我ながら無知ということに恥ずかしさを覚えた。
こんな、と言っちゃあ失礼だけどおじさんである店主まで知っていることを俺は知らなかったわけだ。
もう少し情報は取り入れるべきだと思った。

しかし山男子はテニス選手だった…しかも日本を代表するというんだからさぞかし有名人なはず。
じゃあ…あのオークションにいたのは…いや待てよ。
あんな怪しい犯罪めいた闇サイトにプロテニスプレーヤーなんかがアクセスするはずはない。
きっと他人のそら似だ。
そう信じ込もうとしたとき、店主はぼそっと喋った。






「しかし…あれだなー…手塚選手もプライベートを暴かれて大変だよなぁ」

「え?どういうことですか?」

「彼は恋人と一緒に歩いていた所を激写されて…いや友人にしてはやたら密接的な行動をしていてね。そのー…まぁ男がいたんだ」

「恋人…が男…」






俺は恋人が男だと聞いてオークションにいたのは手塚本人だったのでは、という考えしか思い付かなかった。
早合点だとは思わない。
他人のそら似にしては似すぎている。
やはりあれは手塚国光だったのではないだろうか。
だがそんな有名人がアクセスするはずもないし、俺以外にはボーリング焼肉がいた。
だったらボーリング焼肉が気付くはずである。
でももしかしたらボーリング焼肉も有名人には疎いのかもしれない。

店主のおじさんに時間は大丈夫なのかと聞かれて俺が時計を見ると、もう20分も経過していた。
慌てて俺は自転車を全速力でこぎだした。






気になる…。
だけど確かめようがない。
本人は有名過ぎて俺なんかが近付ける存在じゃない。

その時俺はパッとひらめいた。
何も手塚本人に聞く必要はない。
あのオークション会場にいたんだから不二は知っているはず。
仕事なんてほったらかしにして早く不二に聞きに行きたかった。













仕事を終えてクタクタになった俺は不二に一番に駆け寄る。
鞄を置くよりもただいまを言うよりもしなくてはならないこと。
それは会場にいた山男子が手塚かどうかと聞くことだ。






「不二っ!あのとき会場にいた山男子ってプロテニスプレーヤーの手塚国光!?」

「あぁ、なんだ。英二知ってたんだ。うん、そうだよ」






まるで何事もなかったかのように言う不二。
俺にとっては大事なのに、クスクスと余裕の笑みを溢している。
じゃあ手塚の恋人が男って…しかも別れたって…