ふと気付くと既に朝になっていた。
不二は隣ですやすやと寝息を立てて眠っている。
…嘘みたいな本当の話。
俺は不二に抱かれた。
興味がなかったわけじゃない。
不二は美人だし、綺麗だし、可愛いと思った。
だからすぐとは言わずとも、長く付き合う事ができたら不二を抱きたいと思っていた。
それなのに何故俺が抱かれる側になってしまったんだろう…。
手順を知らなかったからだろうか。
戸惑っていたからだろうか。
いずれにしても俺達は関係を持ったわけだ。
…俺はなんだか早いような気がするけれど。
まだ一緒に暮らし始めて三日しか経っていないというのに。
まだ身体の中が熱く感じる。
「ん…」
「あ…不二。起こしちゃった?」
「いや…もう朝なんだね。久々に上だったからいつもより目が覚めにくかったよ」
「(久々に上って…なんの話だろ…)そ…っか。あ、俺朝食用意してくるね。有り合わせでいい?」
「もちろんだよ。ありがとう」
布団に不二を残し、台所に向かう俺。
ワンルームのため、大した距離はないが移動をしてふぅと溜め息をつく。
一人暮らし用の小さな冷蔵庫に入っていた卵を取り出し、片手で割り、油をしいたフライパンに落とす。
誰でも簡単にできる卵焼きを今日は半熟にしてご飯の上に乗せる。
軽く醤油をかけて、刻んだキャベツを脇に添える。
最近環境の変化があったせいか食が細くなったので、朝はこのくらいで充分なのだ。
不二はどうかというと、こいつもあまり食べない。
だから細くてスタイルもいいのだろうけど。
「ほい、おまたへ」
「ありがとう」
「……」
「……」
「……」
「…英二」
「…何?」
「英二はさ…どうして僕を落札したの?」
ただ興味があったからだ。
不二周助と一緒に暮らしたかったから。
ただそれだけだった。
特別な関係を持ちたいとかそんなんじゃなくて…一緒にいたいだけ、と言ったら不二は納得してはくれないだろうか。
俺がそう言うと不二はうん、と頷いていつもの笑顔に戻った。
…俺はこの不二の微笑みが大好きだ。
でも…また切なそうな表情をするのは以前と変わりなく。
俺も微笑んだけれど何かが引っ掛かる…。
もっとわかり合いたいけれどまだ俺達の距離は縮められていなかった。
4日目の朝になって、俺は仕事に向かう。
家に不二を残して俺は出掛けた。
俺の職場までは自転車で20分。
まるで学生のような暮らしだけれど、オフィスは小さな事務所のような場所だし、社宅などは存在しない。
アパートが多い地域だからまだいいけれど、ワガママを言えば綺麗な社宅に住んだり、車を所有できるような生活がしたかった。
まだ就職ができただけマシなのかとも思いつつ、はっきり言って残業代も出ない、給料も低い会社にいつまでしがみつけばいいのだろうと考えると悩みは尽きない。
溜め息ばかりの毎日だ。
それでも不二が家に来てくれてからは蛍光灯の調子が悪いあの部屋でも、明るくなった気がして楽しい暮らしになっている。
まだまだ俺だって人生捨てたものじゃないはずだ。
…と考えていると、ふと俺の目に止まったのはテレビ。
小さいながらも息の長い電気商店に飾られた、地デジ対応の新型テレビはちょうど芸能ニュースを流していた。
いわゆる朝のニュース番組にある芸能コーナーである。
そこに映っていたのは見覚えのある人物だった。
眼鏡を掛けていて、さらりと流した髪、落ち着いた態度。
マイクを向けられても嫌な顔はせず、かと言って笑顔を作るわけでもない、堅物という言葉がふさわしい人物。
あいつだ…!
