「…君はいつになったら僕を抱いてくれるの?」






何を言われたのか理解ができずに苦しむ俺。
頭をなんとか働かせようとはするけれど不可能なようで、俺は頭が真っ白になった。

不二はまだ悲しそうな表情でいて、そのまま俺に近付いて来た。
不二が何をしたいのか予想すらできなかった俺は幼稚な思考だった。
「まだ何かやりたい事があったの?」と問いかけようとした時、俺の唇は不二の同じもので塞がれた。
容易に入り込んだ舌は俺の舌を絡めるようにじっくりと味わいながら深いキスをする。
この年齢にして恥ずかしながらキスの経験がない俺はただ頭が真っ白になるばかりで、意識が飛びそうになるのを抑える事に必死になっていた。
漸く唇が離された時、酸素が巡ってきて現実に呼び戻された感覚だった。
…このようなキスができるのも経験があるからなのか。
キスの上手い不二に嫉妬した。






「英二の答えは…?」

「こ、答えって何?」

「僕を抱いてくれないの?」

「抱くって…どういう意味だよ」

「まさか英二…本気で言ってるの?」

「わからないよ…お前の言ってる事…」

「今までのお客さんでこんなの初めてだ…まさか本当に意味がわからないなんて」






不二は深い溜め息をするとソファーに凭れた俺に跨がり、上に乗り掛かる。
未だにわからない…不二の求めている事が。
不二は細くて長い綺麗な指で、俺の着ていたシャツのボタンを順番に外し始めた。
まさか…と思い俺は不二の手首を掴む。






「お前…マジで…?」

「マジじゃなきゃこんな事しないよ?それとも男同士の性行為に嫌悪感でもあるのかい?」

「なっ…」






言葉に出されて改めて恥ずかしくなった。
俺は男どころか女とだって付き合った事はない。
当然キスの経験もないのだからセックスだってしたことはなかった。
だが不二の前で自分が童貞だとは言えなかった。
そう告白したら相手にしてもらえないような気がして。
だから俺は気付かれないように隠し通した。






「いや…いきなりだったから思考がついていかなかっただけだよ。なんだ…不二慣れてんね」

「…英二。隠さないでいいから。“初めて”なんでしょ?」

「ばっ…バカな事言うな!俺は…俺は…経験豊富なんだよ!!」

「そうなの?ふーん…じゃあ前戯もいらないね。初めてなら優しくしてあげようと思ったけど。心配して損したよ」






何をし出すかと思えば。
考える前に引き裂かれるような痛みが後孔から全身に走り、暴れずにはいられなかった。






「あぁぁぁぁっ──────!!!!!!!!!!」

「そんな大声出したら…お隣さんに怒られちゃうよ?英二は慣れてるんでしょ?静かにして」

「うぐっ……ぅ…」






凄まじい痛みに何も言い返せず、俺は何かが弾けるのを身体の奥に感じた。
それと同時に自分のものまで破裂するように射精してしまった。
自分の腹を汚し、肩で呼吸し、顔は涙でぐしょ濡れになり、明らかに慣れているようには見えなかっただろう。






「嘘は良くないよね、英二」

「はぁ…ぅ…っ」

「英二の初めて貰っちゃった。嬉しい」

「………」

「…嫌だった?」






俺は痛みに慣れなくて黙っていた。
不二は俺が怒っていると思ったのか、優しく抱きしめて俺の鎖骨に口付けて囁いた。
それは消えそうな儚い、優しい声だった。






「ごめんね…英二」