少し遅めの昼食を取るなり、帰りは近くのショップに寄って不二の私服を選んであげた。
不二は私服をあまり持っておらず、せっかく良い顔立ちなのにもったいなかった。
俺があれもこれもと手に取っては不二に着せていたので、まるでファッションショーのようになった。
不二は顔の作りもスタイルも良くて、どんな服でも着こなしていく。

しかし、二人だけで買い物をしていたはずなのに、気付けば人だかりができていて、写メを撮る女子高生や(盗撮じゃん!)ヒソヒソと恥ずかしそうに友達同士で話す女の子達がぐるっと一周俺達を囲っていた。






「すごいね…こんなに人いたっけ」

「不二に集まってきたんだよ。女子ホイホイだな、お前」

「なんかヤダなぁ…その言い方」






苦笑しているとさらにフラッシュの嵐でとても買い物どころじゃなくなってしまった俺達は、適当に服を選んで会計を済ませると早々に店を出た。
その後も何人かはついてきたがタクシーに乗ると振り切る事ができ、俺達は安堵した。
おかげで高いタクシー代がかかるわ、不二との買い物を邪魔されるわで俺は非常に落胆した。
不二はどうかと見てみると、なんてことはない。
相変わらず余裕の笑みでこちらを見ていた。






「アイドルにでもなった気分だよ。ふふっ、楽しかった」

「なっ…お前…」

「何?英二。そんなにひきつった顔してどうしたの?」

「そ…そんな事言われたら…俺」






ただ不安になった。
不二は仕事だから仕方なく俺と一緒にいるだけであって、本当は女子と一緒にいたいんだ…と思ったから。
俺はこのオークションに惹かれただけあって、男といる方が気楽で楽しくて、自分に合っていると思った。
だけど俺がどうであれ、不二が俺と同じ考えを持っているとは限らないわけだ。
そう考え出したら無性に悲しくなり始めて、不二の顔を見る事ができなくなっていた。
俺が俯いたままでいると不二は俺の顔を覗き込む。






「英二…?」

「…女の子に追いかけられるの…好きなんでしょ」

「あ、それを英二は気にしていたの?やだなぁ、僕は追いかけられるスリルが良かっただけで、追われるのは女の子だろうがなんだろうが構わないだけ。ゾンビでもね」

「え…ゾンビは俺やだな…」






スリルなんて簡単に言ってるけれど、実際は服を掴まれたり、頭を触られたりで何もかもがぐちゃぐちゃになっている。
とてもスリルを味わう余裕なんてなかったはずだけど。
不二は終始ニコニコしていたので俺は敢えてこれ以上追及はしなかった。






「英二が悲しむ事を僕はしたくない。君が嫌だと思うなら…僕を縛って家に閉じ込めたらいいよ」

「はぁ〜?馬鹿な事言うなよ!」













帰り際に近くの銭湯に寄ってから、不二を連れて家へ帰った。
こうして三日が経ったわけだけれど時間と言うものは早いもので、もう夜になっている。
呆気なく時間が過ぎてしまえば、不二との別れも近付いて来る。
また継続契約をすればいい話だけれど、不二の話を聞いてから不安の要素しかない。

───いずれは金など尽きてしまう。
しかも相手は常識が通用しない集団だ。
その組織から不二を抜け出させてやりたくても俺にはいい案が思い浮かばない。
ずっと不二と一緒にいるにはどうしたらいいのだろう。
考えていたら頭が痛くなってきたので、俺はソファーに身を投げた。
すると不二から視線を感じたので目をやれば切なそうにこちらを見ている。
今に始まった事ではない。
不二は不意に悲しそうな、切ない表情をする。
それが普段の笑顔と対照的だからなおさら気になる。






「…不二ぃ?どったの」

「…君はいつになったら僕を抱いてくれるの?」