借金返済のために自分の身を出品した不二。
しかし返済は終わっているはずの借金はまだ残っていると文句をつけられ、さらには暴力で不二を支配していた。
そんな裏側も知らないで安易にサイトにアクセスし、不二を落札した俺は一度地獄に堕ちたらいい…

口を開く事が出来ないまま数時間が経った。
すると不二は突然立ち上がり、俺の腕を引っ張った。






「英二まで暗くならないでよ!…なんて言っても無理か。ごめん…こういう話するの…最初から言わない事が多いんだけど英二には早く言っちゃった」

「そうなの?」

「うん…お客さんに悪い話を持ち込むなんて言語道断だよね。でも英二には…僕を知ってもらいたくて」

「不二…俺、不二のこと…助けたい」

「英二まで…そんなこと言わないでよ」

「だって…不二がそんなに辛い思いしてるのに俺だけ楽観的になんか考えられない!俺は不二の味方だかんね!!絶対なんとかする!」






何をどうするかなんて具体策があるわけじゃない。
でも口から出任せを言ったつもりもない。
今の話を聞いて無視なんて出来ない。
俺は不二にとっての最善策を考える事にした。

しかし大事な話をしているというのに空気の読めない俺の腹は限界を越えたのか、ごろごろぎゅるる〜と凄まじい音を鳴らした。
隠そうも何も突発的に出たために誤魔化す準備も出来ていない俺に不二はぷっと吹き出した。






「そういえばまだ僕達お昼がまだだったね」

「う…笑うなぁ〜!」

「はいはい…ごめんごめん。英二は普段どこの店に行くの?」






話題は店の話になり、暗くなっていた気持ちも明るくなった。
俺は裏通りにあるお気に入りの洋食屋さんがオススメだと不二に教えた。
せっかくなので今日は不二と一緒に洋食屋さんで昼食をとることにした。

裏通りは細い道になっており、パッと見ただけでは猫の散歩通路のようだけれどちゃんとお店がある。
ディスプレイされたスパゲッティやハンバーグはフェイクフードでありながら本物のようで見ているだけで食欲をそそる。
俺がいつも食べているのはプリプリエビフライ付きのふわふわオムライス。
これ、高校生とか知ったら絶対行列出来るぜ〜なんて思いながらも人に教えないのは俺のヒミツの隠れ家的存在な店だから。
下手に人気が出て人で混雑した中で食べたくないなっていう俺の狡い考え。
でも不二を連れて来たのは俺が一緒に食べたいと純粋に思ったから。
不二は俺の特別な存在になって欲しいから。
…という言葉は直接本人に言えないから胸の中にしまっているけれど。






「いらっしゃいませ」

「こんちは〜!今日は友達連れて来たよん」

「珍しいですね。菊丸さんお友達がいないってこの間おっしゃっていたじゃないですか」

「ん〜、そんときはね〜。でも今は一緒に行動する仲の友達が出来たの!不二って言うの!」






不二はペコリと会釈した。
シェフは気が良さそうにメニュー表を不二に渡した。
俺に渡さないのは、もう俺が何のメニューを頼むかわかっているからだ。
不二は綺麗な指でメニュー表をゆっくり捲っていく。
手書きでイチオシ!と赤エンピツで書かれたメニューは、俺が常連客となったきっかけのメニュー。
まさしくプリプリエビフライ付きふわふわオムライスだ。
不二はそこで目を止め、じっくりと眺めていた。






「シェフがイチオシ!って言うだけあって、それ超旨いよ!俺、虜になったもん」

「菊丸さんはオムライスばかり食べてますからね」

「むぅ…今子供扱いしただろ〜ひどぉい」

「フフッ…冗談ですよ」






シェフはニコニコしながら食器を拭いていた。
不二も同じ物にするとの事でシェフはキッチンに向かう。
と言ってもカウンター席から近いからそう大した距離はないけれど。

じゅわわぁといい音がする中でバターの香る空間は心地よかった。
氷の入ったグラスの水を一口だけ口付けた不二は俺を見て微笑む。






「英二といると…和むよ、すごく」

「ホント!?えへへ…良かった」

「いい店を僕に紹介してくれるなんて…嬉しいよ」

「そりゃ不二だからね〜、他の人には内緒だし!俺の隠れ家だったけど今度から俺達の隠れ家だね!!」

「そうだね」






不二は切なそうに微笑む。
何故か素直に喜んでいない不二に違和感がありつつも俺も笑顔で返事をした。