不二に尋ねるには絶好のチャンスだった。
何故オークションに出品されていたのか。
理由を聞ける、そう思っていたのに遠くから呼び掛ける声が聞こえた。
しかも俺ではなくて、不二に、だった。
「やっぱり不二だ!久しぶり!!」
「…タカさん」
「(不二の知り合いなのかな…)」
不二は優しい微笑みでその“タカさん”と言う人と話していた。
俺は邪魔をしてはいけない、と思い少し距離を置こうかと考えた時、不二は俺の手を握り締めてタカさんと言う人に俺を紹介した。
「今一緒に暮らしてる彼、英二って言うんだ。可愛いでしょ?」
「そうだね、不二より女の子みたい」
「タカさん!」
「冗談だよ、ハハ…。不二、俺…また協力するから。お金用意出来たらまた───」
「いいよ、もう〜…タカさんは僕に沢山優しくしてくれたんだから。もう僕の事は忘れてよ、ね?」
なんとなく流れがわかってしまった。
俺の予想では、おそらくタカさんっていうのは俺と同じようにオークションをして不二と一緒に過ごしていたんじゃないだろうか。
それでお金が用意出来たらなんて言ったのかもしれない…。
不二との関係はお金でしか繋げないのだろうかと思ったら急に悲しくなってきた。
「英二…英二?大丈夫?どうして泣くの…」
「大丈夫かい?あっ…せっかく二人で出掛けた所にお邪魔して悪かったね。俺はそろそろ行くよ」
タカさんがいなくなって、俺は涙を流していた事に漸く気付いて、手で涙を拭った。
不二はやたら慌てていて、俺に優しく語りかけた。
とりあえず落ち着くために近くのベンチに座る事にした。
背中を擦られて気持ちがよかった。
何時間こうしていたのかわからないけれど、だいぶ長い時間が経過した気がする。
ふと見上げれば不二は俺を心配そうに見ていた。
「英二…大丈夫?」
「うん…急に泣いたりなんかしてごめんね。俺…自分でも泣いてたの気付かなくて」
「それは構わないよ…英二が泣いてるの可愛いから」
「な、なっ…何言ってんのさ!!ふ、不二の方が可愛いよ!」
「ふふっ、ありがとう。…でもね、英二。心配しなくていいからね。さっきのタカさんは以前落札してくれたお客さんなんだ」
「そうなんだ…やっぱり。あのさ…答えたくなかったら答えなくていいんだけど…不二はなんで…」
「オークションなんてしているのか、って事だろ?」
予想をしていたかのように不二はクスリと笑いながら俺に言った。
思いきって質問をしてみたのに思いの外、反応が悪くなくて拍子抜けした。
てっきり聞かれたくないんじゃないかと思っていたのに。
俺は頷いて不二を見た。
不二はふぅと一回溜め息をついてから遠くを見ながら言った。
「…借金。返さなきゃいけなくてさ」
「そう…なんだ…」
「こんな仕事…普通ないからね。その借金も返し終えてるはずなんだけどまだ返しきれてないとかで、なんだかタダ働きしているだけみたいなんだ。僕」
「あと…いくらくらいなの?」
「さぁ…わからない。現に1万円表示しかしていなかった君を選んだからって何か言われるわけじゃない。でも仕事をやめると言い出せば僕を暴力で脅す。危険な世界に入っちゃったってわけだよ」
笑えない話を無理に笑って話しているから不二の顔はひきつっていた。
なんとなく想像はしていたけれど、不二の言葉で聞くと現実味があって重く感じた。
きっと俺の想像を越える程の苦痛を味わい、苦労をしたのだろう。
俺は不二を見ているのが苦しくて視線を逸らした。
沈黙が続く中で最初に切り出したのは不二だった。
「…タカさんも僕を何回も落札してくれた。だけど2回目からは倍以上の額の金を取るんだ。だんだん増額すれば…限界は来るからね」
「そんな…」
「タカさんが借金を背負うような事は絶対避けたくて…僕だってタカさんと一緒にいたかったけれど僕から断った。そしたら事務所の奴らにまた殴られてね…せっかくの客を取りこぼしやがってとボコボコさ」
「……っ…」
あまりに凄い話で俺は言葉を放つ事が出来なかった。
不二に何かを言ってあげたいけれど何を言えばいいのかわからず、またしても黙り込んでしまった。
