散々裏切られた言葉…ずっと一緒にいよう。
いや、裏切られたなんて言ったら今までの客に失礼だ。
皆好きで嘘を付いているわけじゃない。
願いが叶わないだけ。
だから仕方ないんだ。
その後も手塚は僕に会いに闇オクへ参加し、かなりの額の金を払って僕を手に入れた。
ねぇ、あとどのくらい一緒にいられる?
君だって沢山の金を稼いでも足りなくなるはずだよ。
だったらもう僕に構うのはやめなよ。
僕は金が掛かるから。
人は───どこまで本気になれるのかな。
行く当てもなく歩いていく。
ないわけじゃない。
いざとなれば誰かの元に身を寄せることだってできる。
僕が必ず所持している番号のメモ。
これは手塚の携帯番号。
いつも出るわけじゃない。
忙しい彼と連絡がとれるなんてよほど運がなければ無理な話。
でも。
今は連絡を取りたくて自分の携帯を取り出し電話を掛けた。
電話帳に入っているから本来は必要のないメモ。
だけどこのメモを捨ててしまったら本当に手塚と連絡できなくなる気がして…ずっと持ったままでいた。
僕は都合の良い人間だ。
今回のオークションで手塚は参加していたのに。
それなのに僕は英二を選んだ。
固定客はつけないなんて事務所から言われたわけじゃない。
ずっと手塚を選び続けることも可能だった。
でも選ばなかった。
いや、選べなかった。
だんだん怖くなってきたから。
…僕の考えは纏まってなくてぐちゃぐちゃだ。
僕は何がしたいのだろう。
突き放しておきながら連絡をするなんて。
でもきっと彼は電話には出ない。
忙しい中出られるわけない。
あるいは僕の着信に気付かないフリをするかもしれない。
何にしても、僕は差し伸べてくれた手を一度振り払ったのだから…。
電話に出ない様子だったため、諦めて電源ボタンを押そうとした時、肩に手を掛けられる。
どうやら何度も僕を呼んでいたようで早く気付けと言わんばかりに忙しなく声を掛けた男。
この声に聞き覚えがあるのは気のせいなんかじゃない。
僕は電話を切るのを忘れてそのまま振り返った。
そこにいたのは以前客として相手にした、切原だった…。
「よぅ、久々じゃねぇか。不二さん」
「…何の用だい?」
「冷たいねぇ?用がなくちゃ声を掛けちゃいけないの?」
飄々と話す切原はやけに機嫌が良かった。
僕としては相手にしたくなかった。
もう彼を相手にしていたのはいつだったか。
だいぶ時は経った気がする。
だがもう今は英二という客がいる。
彼を相手にはできない。
…というより相手にしたくない。
僕はまた都合のいいことを言っている。
さっきまでは手塚と連絡を取ろうとしていた醜い自分がいたくせに。
僕こそが一番愚か者であることはわかっている。
「用がなければ声は掛けちゃ駄目だね…僕はまた違うお客様と一緒に暮らしているんだよ。だから君の相手はできない」
その時。
油断したつもりはないのにいきなり切原に抱きつかれ、閉まっていたシャッターに押し付けられた。
ガシャンと金属音が耳元でうるさく響いた。
僕が慌て出すと奴は僕の顎を押さえ付けて唇を奪った。
