生々しい舌の感触が随時後を追うように伝わる。
ぬるくてしっとりした感触は嫌でもあの時の記憶を甦らせた。

切原を客として相手にしていた頃───






痛いと言っても相手は理解しないのか、行為をやめることはなかった。
こいつの執着は異常だった。
僕が嫌がることを何度もしては楽しそうに笑っている。
毎回抱かれては血生臭くなって体中に傷を負っていた。

一度抵抗したこともあったが、そうすると彼は突如目を充血させて激しく僕を乱暴した。
彼には悪魔が宿っている。
そう感じた。

だからもう相手にはしたくない。






「っ……」

「やっぱアンタ…最高。またいたぶってあげるから…俺の家に来いって」

「断る…」

「まだ拒否できる余裕があるなら…その余裕をなくすまでだ。アンタ…潰すよ?」






僕の大事な箇所を強く握られ、痛みが走る。
苦しそうに悶えると切原は嬉しそうに僕を見下ろす。
切原の平手が視界に入ったとき、打たれると思ったらその右手は第三者に止められていて。
その第三者の手は腕まで包帯が巻かれていた。
言うまでもない…白石が制止してくれたのだった。






「不二クン怖がってるやろ。いい加減にせんと…」






白石はしゅるしゅると包帯をほどき、毒手と呼ばれる武器を取り出す。
武器なのかどうか僕にはわからないけれど、以前彼が言っていた。
切原は突如震えだし、覚えてろといかにも漫画チックな捨て台詞を吐いて走り去って行った。

胸を撫で下ろし、溜め息をついた僕に白石は優しく微笑みかけた。
あぁ…彼に会うのは何ヵ月ぶりだろう。
久々すぎてついつい白石を見入ってしまう。






「相変わらずまだ勤務中なんか?」

「…うん。でもさっきの奴はもう客じゃないけど」






そうなんか、と小さく呟いた白石は遠くを見て僕に言った。






「…借金返し終わったとちゃうんか」

「うん…」

「不二クン…嘘はよくないで」






ギクリとして僕は肩を震わせた。
だが冷静を装い、なんとか持ちこたえる。
大丈夫。
まだなんとかごまかせる。
僕は得意の愛想笑いで白石の問いかけに僕は答えた。
嘘なんてついていない。
借金はまだまだあるみたいなんだ、と。






「もう終わりにしようや」

「…何を?」

「いつか王子様が、なんて乙女チックなこと思うても王子様なんか来ぃへんで」

「ふっ…人を馬鹿にするのも大概にした方がいいよ。いつ僕が王子様なんか待っているのさ」

「まさに今やろ。金も身も犠牲にしてでも自分に尽くしてくれる。そんな王子様を待ち望んでるんとちゃうか」

「君が何を言ってるかさっぱりわからないよ。…大体王子様なんて興味ない。そんなもの虫酸が走るね。馬鹿馬鹿しい」






いつか王子様が?
馬鹿げたことを。
僕はそんなことを考えたことだってない。
ないよ…そんなの。

僕は白石に助けてくれた礼を言って立ち去ろうとした。
しかし白石に腕を掴まれて。
まだ何かあるのかと問えば今の僕の状況を聞いてきた。

どうやら放浪していたことに気付いていたようだった。






「泊まるとこないならウチ来てもええで?」