あいつが帰ってこない。
マジで出ていったの?
てっきり帰ってくるかと思ったのに連絡すら来ない。
もう頭に来たから俺は布団に入って眠ることにした。
やっぱり不二には沢山の男がいて、いつでも守ってくれるナイトがいるんだろうな。
あ〜あ〜良かったな。
これだから美人は得って言われるんだよ。

俺は久々に携帯のウェブから例の闇オクサイトを開いてみた。
しかしサイトはなくなっていた。
何故だかわからないけれど表示されない。
不二以外にだってオークションに出品されてる人はいるはずなのに。

俺は不二がいなくなったから他の出品物(人)を見ようとしたわけじゃない。
俺が落札している間、不二の紹介文にはなんと書いてあるのか気になったから見てみただけだった。
しかしサイトが存在していないんじゃ見ることもできない。

その時玄関からピンポーンとベルが鳴る。
こんな時間に訪問者?と疑問に思ったが、覗き穴を見ればその訪問者は不二だった。
水分を吸った髪は雨に打たれたせいか、いつもより長くなっていてぺしゃんこになっている。
表情は俯いているのでよくわからない。

俺は静かに扉を開けた。
不二に対して怒りがないわけじゃない。
かといって家から突き返すわけにもいかない。
きっと外は寒かったはずだ。
僅かながらに体は震えていた。

何も言わずに不二は中へと入った。
俺も背中を押して促した。






「…不二」






最初に沈黙を破ったのは俺だった。
不二は俺を見ないまま立ち竦む。
髪から滴る水が畳を濡らす。
俺は即座に適当なタオルを持ってくると不二の頭に乗せた。
要は自分で拭け、ということ。
不二も理解したようで、自らタオルを手に取り髪や体を拭き始めた。






「…風呂ないから外の銭湯行く?」

「いや…いい。もう時間遅いし…」

「そのままじゃ風邪引くだろ」

「まだ外は雨が降ってる…銭湯行ってもまた濡れるからいい」






湿らせた衣類を身に付けたまま不二は俯きながら体を拭く。
怒鳴りあって喧嘩した後の会話には行き詰まり感があって、俺も不二もどうしたらいいかわからなかった。
しばらく時が経ち、沈黙を破ったのは不二だった。
ただ一言、ごめん。と。

俺は近くに置いてあった枕を不二に投げつけた。
不二は驚いていたけれど構わず俺は不二の肩を押さえ付けて壁まで追いやる。






「ばか野郎!こんな夜中に出ていきやがって!!本気で帰って来ないんじゃないかって心配したんだかんな!!!次やったらマジでもう家入れないから!わかったな!!?」






すごい剣幕で話したら唾が大量に不二にかかっていた。
嫌そうに不二は持っていたタオルで顔を拭う。
ボソッと“汚い…”と言いやがったので余計に唾を飛ばしてやった。
不二は眉間にシワを寄せてはいたけれど、笑っていた。
自然と固い緊張感は解れたようだった。






「ごめん…僕が悪かった。勝手に出ていったりして」

「当たり前だ!お前が100%悪い!!」

「…そこまで言わなくても」

「俺はっ…俺は…お前がいなきゃやだよ…。せっかく変化のある毎日が送れるって思ったんだから…俺の夢壊すなっての!!!」

「英二…そこまで言ってくれるなんてすごく嬉しいよ」






不二はにこりと優しく笑う。
身が震える程綺麗な笑顔だった。