英二と仲直りができてよかった。
ここで引き返さなくては元に戻れないと思ったから。

先程白石に誘われて僕の心は一瞬だけ揺らいだ。
白石はエクスタシーだとか、媚薬を隠した毒手とかよくわからないことばかり言っていたけれど、気は優しく落ち着いていて、そして僕に本気になってくれた。
でも流されてはいけない。
僕はだらしのない人間になりたくないんだ。
それはそれで皆に迷惑がかかってしまう。
結論を出さなきゃ駄目なんだ。






『泊まるとこないならウチ来てもええで?』

『うん…でも…やっぱり…』

『…やっぱ不二クンらしいな。困らせて悪かった。俺は帰るで』

『白石…』

『早く帰りぃや、不二クン。帰る場所はここじゃないやろ』






僕が曖昧だから、僕が自分の気持ちをはっきりさせないから悪いんだと思う。
ねぇ…こんな僕はまだ生きていて本当にいいの?
沢山の嘘をついて、沢山の人を巻き込んで…僕はだんだん自分が嫌になってくる。
お願い…僕はどうしたらいいの…






「不二!」

「はっ…あ、英二」

「お前ね〜せっかく最終日だからって俺有給もらったんだぜ〜?一緒にいたいから話しかけて遊ぼうってのになんなのその態度!」

「ごめん…ちょっと考え事してたんだ」

「また考え事?不二ってすぐ悪いように考えるからまじでポジティブに考えた方がいいよ?大丈夫かよ」






ギクリと肩が震えた。
バレたわけじゃないのになんだか落ち着かない。
英二が透視でもしているんじゃないかと思ったからかもしれない。
そんなエスパーみたいなことあるわけないのに…
僕は取り繕って笑顔になると英二からいきなりビンタを喰らわせられた。
頬がヒリヒリして痛い。
英二の方を見れば頬をぷくっと膨らませて怒っているようだった。






「お前サイアク!俺に併せようとして今度は作り笑い!?ふざけんなよ、不二〜!!」

「ごめんごめん!そうじゃないんだって…英二!可愛い君が上になる必要なんかない…わっ!!!」






人に身体を触られるのが嫌なわけじゃない。
だけど僕の身体の全ては見られたくない。
きっと英二は気味悪がるだろうから僕は必死になってパンツが下りないように抑えていた。
というのに英二はやたら力があって、いつもなら僕が主導権を握っていたはずなのに、英二は僕の服を意図も簡単に脱がせてしまった。
でもまだ大丈夫。
下着があるから英二にはバレない。

少し低めの声で英二を制止させようと試みる。
しかし英二は今日は上になりたいと頑固だ。

無駄な抵抗なのかもしれない。
そう思ったとき、僕の下着が英二によって下ろされた。

英二はしばらく表情を固くして息を飲んだ。






「不二…これ…」

「だから言ったじゃない…やめて、って。まぁ君が見たいなら仕方ないと思ったけど、案の定気味悪がってるし」

「気味悪いわけじゃねーよ!なんで…なんでこんな傷だらけなのさ…前抱いてもらったときは気付かなかった…」

「そりゃあ僕は英二に気付かれないように隠したし、そもそも真っ暗でほとんどわからないはずだよ」

「誰に傷付けられたの…?」






僕はクスリと英二に笑いかける。
一言、ボク、と答えた。