僕が自分自身を傷付けたのはこの仕事をするずっと前からだった。
辛くて悲しくて、良いことなど何もなかった。
もちろん皆そうして生きていることは僕だってわかっている。
でももう我慢の限界で…ひたすら刺激を求めた。
最初はバイト先の先輩がいい店に連れて行ってくれる、と言ったからついていった。
だけどそこはただの廃墟ビルで、気付けば僕は埃まみれの床に押し倒されていた。
『昔の元カノに似ているから一度抱きたかった』
そう言われて僕はひたすら抵抗したけれど、その先輩は身長が僕より高くて力が敵わなかった。
そのまま流されるように行為を終えるとまたしても呼び出されるようになって…僕はバイトを辞めた。
それから自分の足の付け根に刃物を当てた。
後ろや局部に近い皮膚も穢れを落とすように刃物を当てた。
あいつの感触が今も思い出して吐き気がする。
それからは自分でサイトを立ち上げて客を募集した。
面白いように客が引っ掛かる。
初めは金が足りなかったから高額で落札しなきゃ相手にしないシステムにした。
それでもこんな不景気のくせに高い金をちらつかせる奴らは多かった。
向こうだって僕を本気にしているわけじゃない。
だからこっちも商売として成り立つわけだ。
ホイホイ引っ掛かる奴らに沢山金を貢がせて、僕は働かなくてもしばらくは生きていける暮らしを手に入れた。
そんなとき…出会ったのがまさかのプロテニスプレイヤーだった。
今手塚は僕をどう思っているんだろう。
「不二…」
「…なぁに?英二。引いた?」
「ううん…引かない。引かないけど…」
「英二が思っていた人間とは違うよ…まぁ皆面白いくらい僕を信用してるけどね。この顔のおかげでどれだけ客を呼び込めたか…神様に感謝しなきゃね。やっぱり美人は得…」
英二は泣き出した。
僕は話していた途中だけれど会話をやめた。
ぼろぼろと泣く姿は一瞬僕の心を捉えた。
だけど薄汚い僕の感情は止まらない。
「英二…泣かれても困るんだよね。同情とかいらないし。僕はこうして生きていけるから幸せだよ…なんだかんだで僕を覚えていてくれたりするからね。でもやっぱり駄目。僕はずっと同じ誰かを依存し続けたまま生きるなんて…恋人みたいな真似はできない」
「おれは…できる…よっ…」
「皆そう言うけどさ、実際は難しいんだって。僕はもうこんなにも汚れたんだ。こんな僕に何が…」
「じゃあさっ…賭けっ…しよう…?俺…不二の言うことっ…なんでも…聞く」
「何言って…そんなことして何になるの」
「好きな人のためなら俺っ…命だって預けていいっ…お前と俺はっ…二人で過ごすって…もう決めたんだからッ…」
僕はニヤリと笑う。
またこのパターンだ。
そろそろ見飽きているけれど英二がどれだけ耐えられるのか見物だね。
僕は近くにあったナイフを持つと英二に渡した。
英二はナイフを見てギクリとした。
こんな状態じゃ先行き不安になるからちゃんとしてよね…英二。
僕は悪巧みをするような表情で英二に命令した。
「僕を殺して?」
