不二が笑いながら言う。
僕を殺して、と。
鬼のようにも見える表情の不二は、もはや俺の知る不二ではなかった。
だけど俺が言うことをなんでも聞くと言った以上、やらないわけにはいかない。
だけど不二を殺してしまったら一緒に暮らすことはできない。一生。
ナイフを不二の顔に突き付けた。
不二は一瞬たりとも驚く様子は見せない。
「どうしたの?僕を刺して殺しなよ…僕の言うことなんでも聞くんじゃなかったの?ねぇ!ねぇねぇ!?」
「お前殺したら一緒にいられなくなるじゃん…そんなのイヤなの!!!でも…」
「でも?」
「一緒になら死ねる」
不二…俺ってやっぱりウソつきなのかな。
でもさ、不二を殺しちゃったらもう今までみたいに一緒に遊んだりできなくなっちゃうんだよ。
俺はそんなの嫌だよ。
だからさ…俺…やっぱりウソつきだった。
ごめん
不二
不二って可愛いね
あ、ウソウソ!
カッコいいよね
俺さ、男で不二みたいな人初めて見たよ
だってさ、不二みたいに皆優しくないし、言いたいことをズバッと言ったりさ、紳士な奴っていないってずっと思ってたんだよ
だからね、俺、不二に会えて本当に良かったよ
今までありがとう
俺も、なんて言ったら不二に便乗してるみたいで悪いけどね
俺も毎日嫌になってたんだ
代わり映えしないのはまだ許せるけどさ
生きてる自分に疑問を持ち始めたんだ
面倒くさくなっちゃったんだ
一度自殺も考えたことがあるんだよ
こう見えても
だけど自殺する勇気もない、所詮玉の小さい人間だったんだ
俺は
だからこうしてドラマみたいに誰かのために死ぬっていう方が素敵じゃない?
たぶん同意を求めようとすると、独りよがりとか、自己中とか自分勝手とか言われるんだろうな〜とか思うけど
俺は人生を全うできたよ
不二…ありがとう
それにしても綺麗なお花畑だね
どうして不二はいないのかな
なんとなく声がしそうなのに
俺の耳が悪いのかな
「英二っ!!!えいじッ!!!!!!!!!!」
「落ち着け!周りに迷惑だろ」
「英二が…英二が…」
虚ろな目をした不二は床に力が抜けるように座り込む。
以前は見たことがない不二の姿に俺も戸惑う。
だが俺は許せない…不二。
お前は結局何がしたかったのか。
死人を出さなきゃわからないことなのか?
本当は殴ってやりたいこの拳を理性でどうにか食い止める。
不二。
何故今相手にしていた客が自殺を図ったからといって俺を呼びつけた?
…もう何も考えられない、ということか。
「ボクは結局皆を巻き込んでる…ボクは生き方がわからないって叫んで…やってることは小学生以下だね」
「そうだな」
「…っ…そういう他人に対して鞭を打ってくれるの…君らしいよ」
「当たり前だ。こっちは休暇中だったからたまたま日本にいた。時間があったから来ただけで、本来ならば俺は関わらない」
不二が黙った。
いくら俺でもここまで不二を追い詰めるような言い方はしなかった。
今回は特別…別の客に対してだというのに俺が呼ばれたことに腹を立てている。
腕組みをしながら待つと中から医師が出てきた。
不二はしがみつくように医師に問いただす。
本当に小学生以下みたいな行動だ。
馬鹿らしい…
