「もう…僕は結論を出したよ。今までありがとう」

「あぁ」

「…怒らないの?僕…最低なことしたよ」

「最低な人間だということはわかっている。だから無駄なエネルギーを使ってまでお前を怒っても仕方ない」

「…大人だね、君は」

「お前が幼稚なだけだ。俺はもう帰る…お前に構うと次は本当に死ぬかもしれないからな。菊丸…といったか、そいつは一生苦しむんだな」

「酷いなぁ手塚…もうあんなこと二度とさせないよ」

「当然だ」






あれから二週間が経過して、手塚はまたテニスの試合のために日本を離れるらしい。
僕は手塚の人生まで巻き込ませて…本当に最低な人間だよ。
手塚の言う通りだった。

空港で見送って僕はすぐさま離れた。
彼の周りにはマスコミがたくさんいて、一時は僕との関係まで記事にされたからもう目立つようなことはしてはいけない。
もう君には関わらない。
これが手塚と交わした最後の約束。
さよならは言わない。
またテレビで君を見るだろうから。
そして僕がたとえさよならを言っても、君は返事をしてくれないのはわかってる。
それほど手塚を怒らせたのだ。
本人は至って冷静で、怒らないと言っていたけれど実際は腸が煮え繰り返るほど怒りに満ちているはずだ。
僕は刺されても仕方ない人間、そうならなかっただけでも感謝しなくてはいけない。

空港を出ると英二が手を振って僕に駆け寄る。
ついこの間までこの世とあの世をさまよっていたとは思えない回復ぶりに僕は驚いてしまう。






「挨拶…言ってきた?」

「うん…僕のことゴミのように見てたよ」

「そういうこと言わないの!手塚選手は紳士的な人なんだって聞いたよ〜?俺、しゃべってみればよかったな〜」

「だーめ!そしたら手塚が英二に惚れちゃうから!」

「そんなことないっしょ〜!」

「ん、英二!これからランチ行こうよ、今度は僕のオススメの店教えてあげる!」

「本当に!?やった〜!じゃあ不二の奢りね!!」

「はいはい…じゃあ行こうか」














「英二?!はっ…まさか…」

「…よく眠っていたな。まだ手術は終わっていない」

「嘘…今のはまさか…夢…?」






一命をとりとめた英二とこれからランチに行くはずだったのに…僕は今まで夢を見ていたというのか。
愕然とし項垂れた。
すると手術を終えた医師が部屋から出てきた。
僕は医師に駆け寄る。
手塚が何か言いたそうにしていたけれど、今はそれどころじゃない。
医師に英二の安否を確かめる。
こうなったのだって全ては僕が悪いのだから…






「命に別状はありません」






その一言で僕は涙を流した。
しかし次の医師の言葉で僕の涙は止まった。