全ては僕の独りよがり。
勝手な行動で沢山の人を巻き込んだ。
そして今目の前にいる君も僕によって被害者になった一人。
僕は一生この罪を償うために死ぬことは許されない。
英二と離れることも許されない。
自分で撒いた種なのだから責任を持って果たしたい。
退院はしたものの、下半身を自由に動かせなくなった英二。
英二のアパートで僕は住み込みで看病していた。
虚ろな目の英二を前にして、僕は料理を運ぶ。
絶対に君の方が上手な料理も、今の君にはできなくなったことの一つ。
こうして僕は君の大切なものを沢山失わせた。
「英二…朝ごはん作ったから…たべ───」
英二は片手を振り上げ、作りたての朝食を床に払い落とした。
医師に指摘された障害の一つに性格異変もある。
だから今の英二は僕に対して八つ当たりするような行動を取る。
以前の英二の面影はもうない。
「そんなもの…いらない」
「ごめん…作り直すね、冷たいものの方が良かったかな、今日は暑いし…もう少し食べやすいものに───」
僕の頭から降り注ぐぬるくなったお茶は昨夜英二に渡しておいた500mlのペットボトルのお茶。
英二は楽しむようにケラケラと笑い、ペットボトルが空になるとそのボトルを僕にぶつけた。
「早く片付けろよ。俺はお前のせいで体が動かないんだから。片付けんのはお前の仕事だろ」
「そうだね…ごめんね、英二」
「気安く名前で呼ぶなよ!」
「…ごめんなさい」
英二はずっと僕を名前で呼んでくれない。
お前、としか言わない。
性格も変わってしまった。
僕がしたことはおそらく償えるようなものではないんだろう。
だからと言って僕は逃げない。逃げないよ───
「はぁ〜…なかなか演技ってのも疲れるな〜」
「何を言ってるんだ、あいつを凝らしめたいって言ったのは猫のエビフライ…いや英二、お前じゃないか」
「まぁね〜!でもそういう大石だって協力して欲しいって言ったじゃん?まぁ大石の叔父さんに頼まなきゃ裏工作だってできなかったしぃ?」
なんの話をしているのかさっぱりわからなかった。
僕が買い出しに行って戻ってきたときに、英二のアパートの部屋から聞こえてきた会話。
僕以外にも英二のアパートに出入りをしている人間がいるのか。
気になって僕は会話が途切れたタイミングで合鍵を使って中に入った。
どこかで聞いた覚えのある声だと思ったら、以前オークションに参加していたボーリング焼肉がいた。
「あっ…不二」
「バレたか…まぁ仕方ない。これ以上やっても同じこと繰り返すのも英二はつらいだろ」
「まぁね〜。じゃあネタ明かし、といきますか!」
さっぱりわからない僕は呆然と二人を眺めていた。
英二はふぅとため息をつくと、よっこらせと言いながら立ち上がった。
下半身は動かないはずの英二がそこに立っている。
僕はその光景に驚き、開いた口が塞がらない。
英二はピースをすると横にいたボーリング焼肉が説明した。
英二はケガを負ったものの、最初から手術などは必要なかったという。
ただ、このまま何事もなかったかのように済ませるのは英二が納得できないので、ボーリング焼肉…大石の叔父さんに頼み、工作したんだとか。
僕は英二が演技をしていたなんて全く気付かなかった。
見事に僕は信じ込んでいた。
だからと言って僕が英二を攻める理由などはなく、むしろ当然の報いであることはわかっていた。
「恐れ入ったよ…英二」
「へへーん!まぁね〜」
「と、言うわけで俺はそろそろ帰るよ。じゃ、また!」
大石は英二のアパートから出ていった。
残された英二と僕。
まだ状況は完全に飲み込めておらず、僕は英二の方を見た。
英二はニッコリ笑った。
そして英二は僕に声を掛けた。
「騙して…ごめんね?」
