あれから入札者状況を見たけれど入札者するヤツはいなかった。
やっぱり普通の常識で考えたらこんなヤバそうなオークションなんてやるヤツいるわけない。

もうじき不二周助の入札は期限が間近であり、締め切りになる。
俺はハラハラとドキドキが止まなかった。

カウントダウンは0時0分となり、締め切りになった。
キャンセル不可となった今、最終判断会場の詳細メールが来た。
なんか…名前怖い…。
最終判断会場って…確かにそうなんだけど、本気でヤバい気がしてきた。
でもこうなるのは目に見えていたんだ。
わかっててやってるんだから今さらビビっても仕方ないっての!

その最終判断会場と書かれた場所へ、指定された日時に向かう。
俺はいつ死ぬか、殺されるか、あるいは警察に逮捕されるかわからないので、意味はないとわかっていながらサングラス着用の上で会場に向かう。
恐ろしくて下をうつ向いていると肩を叩かれた。
ひぃっ!と情けない声を出して怯えると、相手はやたら萎縮していた。






「や、やぁ…突然声をかけてすまなかったよ。キミ、例のサイトの入札者だろ?」

「は、はぁ…」

「良かった!一人で心細かったんだよ、ちょうど良かった!あ、俺はボーリング焼肉ってニックネームの7万円表示した入札者だよ!よろしく!」

「(こんなにベラベラ話してこいつ大丈夫なのかな…)あー…俺は猫のエビフライって言います」

「猫のエビフライ!?あの1万円しか入札しなかった!?」

「え…あ、はい」






入札価格が1万円と聞いて「あれは発狂でもしてるのかと思ったよ」と言うこの男。
非常に腹立たしかった。
挙げ句にニックネームがボーリング焼肉って変な名前だし、頭がボーリングの球みたいじゃんかと俺は笑ってやりたかった。
だけどこの先に待ち受ける未来が怖くて笑ってやる余裕がなかった。
俺はサングラス先の目を見られないように前髪を直すふりをして顔を隠した。
それに比べてこいつのオープンなこと。
余裕と言うか天然なのかは知らないけれどやたら俺に話しかけてくる。
俺としてはさっさとその最終判断とやらをして、早くこの場から立ち去りたいと思っているのに。

すると向こうから歩いてくるのはもう一人の男。
眼鏡を掛けた、俺達よりぐっと年上のような男は俺達を見ていた。






「もうすぐ時間だ。会場に入らなければ不当請求を受けるハメになる。急げ」

「な…なに?不当請求?」

「猫のエビフライは知らないのか?時間厳守で守れない場合は自分が出した価格の10万倍支払わなくてはいけないんだよ」

「は?!そんなの書いてあったっけ?!」

「早く急げ」






急かす男は至って冷静だった。
最初は会場の管理人か、サイト運営のスタッフかと思ったけれどもどうやら俺達と同じ入札者らしい。
ってなると140万円出したのはこいつなのか。
金持ちだなぁ…。

…いや待てよ?
今の声には何故か聞き覚えがあった。
なんだか初めて会った気がしない。
と言うか、直接会ったことはなくても何処かで見たことがある気がする。
ただの気のせいならいいんだけど…とにかく不当請求なんてもんは受けたくなかったから会場へすぐに入ることにした。

会場は小さな空き部屋のある廃墟になったビル。
漂う雰囲気もさることながら蜘蛛の巣の張る部屋は汚らしくて埃も酷い。
やっぱりこんなのヤバい悪徳商法だ…!
大きな事件に巻き込まれる前にさっさと逃げた方が良さそうだ。
俺は終始周りを伺って逃げるチャンスを探っていた。

中に案内されると、3つ並べられた椅子があった。
どうやらここに座れ、と言うことなんだろう。
沈黙の中で俺は心臓をバクバクさせながらゆっくりと座った。
この部屋には誰もいないみたいに見えるけれど、部屋の天井の隅にカメラが据えてあるのがわかった。
つまりは別室で俺達を監視しているんだろう。
不気味さと恐怖で全身が勝手に震えてくる。

しばし沈黙が続き、息が詰まりそうになる空間で呼吸がままならない俺は、体の震えを隠すのに必死になるしかなかった。
するとドアから黒いスーツとサングラスを着用した男が三人入ってきて突然俺達を拘束した。
腕から足から縛り上げられ何が何だかわからぬまま、目隠しもされる。
視界を覆われ、体の自由を奪われた俺達。

数分後、目隠しを取られ視界が明快になると一面真っ白な狭い部屋に一人残されていた。






「(逃げなきゃ…)」

「その必要はないよ」






はっとして後ろを振り向く。
後ろにあったドアから入って来たのは見覚えのある男…サイトで出品物として上げられていた不二周助だった。
彼はクスリと余裕のある笑みを浮かべるとゆっくりと俺に歩み寄り、俺の顎をくいっと持ち上げるとそのままキスをした。