彼のキスは甘くてとろけそうなもの。
何も考えられなくなって気付けば押し倒されていた。
現状が理解出来なくて涙でぼやける視界にうっすら彼が見える。
体に力が入んない…






「キミ…入札は初めてでしょ?」

「(声初めて聞いた…すごく綺麗だ…)うん…」

「どうして僕に入札したの?」

「…会ってみたくて。それとかっこよくて…綺麗で…あと…一緒に暮らしてみたかったから」






こんな回答でいいのだろうか。
この押し倒されている状況はとてつもなく恥ずかしいのだけれど、落札者を選ぶための面接のようだから俺は言葉を慎重に選ぶ事だけを考えた。
彼は次々と質問を俺に投げ掛け、頷くと今度はにっこりと微笑んで俺と距離を置いた。






「1万円の入札者って言うからどんなに変な人だろうと思ったけれど…全く問題はないね。それどころか君は僕の好みだよ。つい調子に乗ってごめんね」

「あ…いや…」

「照れる顔も可愛いな…じゃあまた後でね」






彼は手を振って俺に笑いかけ、部屋を去って行った。
おそらく面接的なものは終わったんだろう。
俺はチャンスを伺って早くこの場から立ち去ろうとしたのに、今はそんな気持ちはさらさらなかった。

オークションは実在する。
しかも今の不二周助に悪意はないと感じた。






しばらくするとまた黒スーツにサングラスの男が一人部屋に入ってきて、俺を拘束し目隠しした。
きっと最終判断は終わったのだろう。

目隠しを取られると俺は青い部屋にいた。
あまり造りは良くないソファーに座らせられ、安定しない体勢で俺はバランスを取る。
目の前には先程直接会ったばかりの不二周助がいた。






「おめでとう、猫のエビフライさん。今回は君が僕の落札者です」

「えっ…!嘘…」

「本当だよ。落札者は僕個人が決める事になっているからね…1万円はすぐに用意しなくてもいいから。じゃあ行こうか」






俺の思考回路はショート寸前だった。
まさかこんな短時間で落札が決まるとは思わなかったからだ。
未だ理解出来ない俺はどうしたらいいのかわからず、ただ不二周助を見つめる事しか出来ない。

すると不二周助はクスリと笑い、優しく俺の頭をゆっくり撫でた。






「では一週間よろしくね」






その頃、最初に入った部屋に取り残されていたのはスタッフと間違えた眼鏡の男、そしてボーリング焼肉だった。
黒スーツにサングラスの男から事実を告げられ、二人は息が止まる思いをした。
何故なら両者共自分が落札出来ると思っていたからだ。






「(不二…ついに俺を見捨てるのか)」

「何故だ!猫のエビフライはたった1万円しか入札しなかったじゃないか!!俺だって7万円しか入札しなかったけれど…俺が選ばれない理由は何だ!?誰か教えてくれ!!!」

「落ち着け、ボーリング焼肉!暴れると不当請求をうけ…」

「どうして不当請求なんだ!?おかしいだろう!!…なんだお前ら…俺を連れて行くのか!?何をするって言うんだ!離せっ!!離すんだぁっ!!!!!!!」













「下の階…暴れているね」

「…何が起こっているの?」

「僕が選ばなかったボーリング焼肉と…山男子に事実を告げているところなんじゃないかな。二人とも納得はしてないだろうからね…」

「山男子?あ、あの眼鏡の人?(俺がスタッフと間違えちゃった人か)」

「そうだよ。…山男子には特に謝らなくちゃいけないんだよね」

「え?」

「いや…何でもないよ。じゃあ僕達は行こうか。家に泊めてくれるよね?」

「もち!」






不二周助を落札した俺は家に連れて帰る事にした。
落札した物が人間だなんて…今でも信じられなくて俺の心臓は飛び跳ねるように拍動していた。