俺は元々住んでいたマンションから出ることにした。
今思えば火事が起きたり、不審者につきまとわれたりして縁起の悪い家だと思う
。
さっさと出払ってよかった。
これからしばらくの間、俺は不二の家に住まわせてもらえることになった。
もちろん家賃や生活費も俺は出せるだけ出すということで、基本は折半という形
を取った。
「不二の家いいね〜。なんか自然な雰囲気ー落ち着くー」
「サボテンとか置いてるからかな?ゆっくりくつろいでいいからね」
俺と違って散らかった感じの部屋じゃなく、きちんと掃除の行き届いた綺麗な部
屋は、あんまり男の部屋という感じに見えなかった。
もしかして…不二って彼女いるのかな?
「不二の部屋綺麗すぎだよね〜。もしかして彼女に掃除してもらってる?」
「まさか!僕に彼女がいる所なんて見たことないでしょ?これは全部自分で掃除
してるんだよ」
「え〜!だって仕事してんじゃーん!忙しいでしょ、あ!実はママに来てもらっ
て掃除してもらってるんじゃ」
「僕をマザコンにしたいのかい?英二」
「いや、嘘です…すみません…」
不二は紅茶を入れてくると言って台所に向かう。
荷物を入れ、移動させたので疲れていた俺はお言葉に甘えてくつろいだ。
明日から月曜日…バイト行きたくないなぁ…
ふと見た白い棚の引き出しから何かが飛び出ていたので中に戻そうと一度引き出
しを開けた。
俺は息が止まった。
引き出しに入っていたのはカップ麺のゴミだった。
しかも洗わないまま入れてあったみたいで強烈な臭いがした。
ふたも、割り箸も入っていた。
しかもこのカップ麺…気のせいかもしんないけど俺が前食べてたやつじゃん…。
たまたま不二も食べたのかもしんないけど…それにしてもゴミをこんなとこに普
通入れないよね…。
洗ってないから何かに使うとも思えないし…どういうこと…?
「おまたせ英二…何してるの」
「へ?何もしてない…」
俺は必死に誤魔化そうとした。
なんだか触れちゃいけないような気がして。
「ここ…単なるゴミ入れだから。僕、だらしないから適当にゴミを入れちゃう癖
があるんだよ」
そんなわけないじゃん。
こんなに部屋綺麗にしてるくせにゴミを棚の引き出しになんて入れないでしょ。
「ほら紅茶。飲んで」
「う…うん」
俺はカップに口を付けた。
紅茶を飲んだらなんだか瞼が重く感じる。
ダメ…なんか…眠い…。
気が付くとベッドに寝かされていた。
ひどく疲れていて俺は眠ったらしい。
意識が朦朧とするまで眠かったのかな…まぁいいや。
「あ!!!」
床に手をつく。
まただ!
あの時と同じ…腰の痛みと…中に何か入ってるような感じ…!
お腹痛い!!!
「大丈夫かい、英二。君はいつも寝起きが辛そうだけど」
「一人で眠る時はならないのに…なんでか知らないけど不二と一緒だと…」
「僕のせいなんだ?」
「いや!たぶん違うと思う…俺の気のせいだよ、うっ!!」
「…トイレに行っておいで。もし中に何かあったら掻き出しちゃった方がいいよ
?」
俺は駆け込むようにトイレへ入った。
以前と同じパターン…また下痢してる。
考えたくはなかったけど不二は毒でも盛ってるんじゃないかと思った。
だって俺一人の時はないんだもん!
こんなの…おかしいじゃんか!
「不二!俺の紅茶…なんか入れたでしょ」
「君が疲れていたみたいだから早く眠れるように睡眠薬入れた」
「は?!!!なんで睡眠薬なんて入れるのさ!いらないよ!」
俺は勝手に薬を盛られたことに腹を立てた。
だったら最初から言えばいいじゃんって思うし。
「ごめん!待って!僕が勝手にしたこと…悪いと思ってる。でもこれは英二のた
めを思ってしたことなんだ…君にとって…いいと…思って…」
「な、泣かないでよ!不二がそう思ってくれてたなら…俺も責めないし…」
「ほん…と?」
見上げた不二の顔は涙に濡れて綺麗だった。
濁りのない、澄んだ涙を流しているんだ…不二…俺のこと思ってくれてたんだね
。
「たぶん薬が体に合わなくて下痢したんだと思う…もう勝手なことはしない…許
してくれるかい?」
俺は頷いた。
不二が悪いことするはずないもん。
疑った俺が悪かった。
ごめん…不二。
「君が優しい人でよかったよ」
不二を抱き締めた。
俺は親友の優しさを何もわかっていなかった。
不二…本当にごめんね。
