俺が目を覚ますと、そこは真っ白な天井だった。
複雑な機械に繋がれた俺の側で涙を流していたのは不二だった。
手を震わせ、ただ俺を見ていた。
何が起きたか理解できていなかった俺は体を起こそうとした。
でも看護師さんに止められて再び寝かされる。







「英二…意識が戻ってよかったよ…っ…」

「俺…一体どうなったの?」







不二が口を開こうとした。
でも何を思ったか話すことをやめてしまった。
隠し事はしないでよ…俺達…友達じゃん…。







「俺…思い出せないんだって…何があったか…本当にわからない…ねぇ…教えて よ…」

「君は絶対ショックを受けるよ…僕はあんまり言いたくない」

「いいよ…。いいから…何があったの?」







今思えばなんで聞き出そうとしたのかわからない。
俺は真実を聞いて急激に吐き気を覚えた。



嘘だと思いたかった。
信じたくなかった。

嘘だ

嘘だ

嘘だ







彼女が死んだなんて…







嘘だ!!!!!!!!!!!!!!!!































俺は退院した。
退院したところで会社に行こうなんて思わない。
何もしたくなかった。
生きることすら嫌だった。
生き甲斐だった俺の彼女をひき逃げなんかで失って…俺は抜け殻になったみたい だ。
魂なんてこの世に存在しないんじゃないかって思う。
鏡で自分の姿を見た。
俺の目は死んでいる。

当たり前。
恋人がいなくなって平常心を保てる方がおかしいし。


俺は……絶対ひき逃げした犯人を許さない。
そして、助けようとした俺を足止めした犯人も───絶対許さない。

許さない…!























会社の同僚にも心配された。
悲しみに浸るばかりではいけない。
泣いてはいけない。

でも…仕事なんて本当に行く気がしない。
彼女と出会えた会社…見る度苦しくて体じゅうが痛い。

でもこんな俺を最後まで心配してくれたのは不二だった。
やっぱり持つべきものは親友だと思った。







「英二、辛いならいつでも言ってね。仕事…変わってあげるから」

「ありがとう…そんなに俺に気を遣わなくていいからね?俺は大丈夫だから」







精一杯笑ってみる。
でも本心で笑っていないのを簡単に見破られた。
人間悲しいときは無理に笑わなくていいらしい。


頭を撫でられて、ぎゅっと抱き締められたら目が熱くなって洪水が起きたかのよ うに涙が出た。
顔が全てぐっしょりになった。
不二の服もみんなびしょびしょになっちゃった。

でも…やっぱり辛いよ…涙が止まんない…















仕事に支障を出すなら会社を辞めろと言われた。
ここの上司は血が通っていないんじゃないかと思うほど人情がなく、思いやりも ない、冷たい人間だった。
正直俺は会社に行く気力がなかった。
もちろん自分が甘えていることぐらいわかってるけど…。

悩んだ末に出した俺の答えは“辞職”だった。















一人暮らししている身で働かずに暮らすことは不可能だ。
始めは仕事量の多くないバイトでもやろうかと思った。
だけど時給600円と安い給料で、生活できるかできないかといった厳しいものだっ た。







「これじゃ生活できないでしょ…僕が援助するよ」







と言ってくれたのは不二だった。
その優しさが嬉しくてまた俺は泣いていた。











「英二、僕とルームシェアしようよ」







不二の提案に賛成した。
確かにこんな部屋の広さは俺にはいらなかった。







「心が落ち着くまで…いやずっといてくれてかまわないから」

「ありがとう…」







仕事をやめなかったら不二に迷惑かけずに済んだのに…。

俺はつくづく無器用な人間だと思った。























「た…ただいま…」

「そんなに固まらなくていいのに。我が家だと思ってゆっくりしていけばいいよ 」















不二の優しさが心に染み渡った。
それじゃあ遠慮なく住まわせてもらって…といっても やっぱ緊張しちゃうんだけどな。