衝撃的すぎてどうしたらいいのかずっと悩んだ。
まだ唇に感触が残ってる。
彼女とは違う…甘くなくて、でも熱くて激しい…なんでこんなことになったんだ
ろうって思う。
そりゃ不二は友達だけど…欧米じゃないんだし…。
キスするなんて…。
次会ったらどんな顔して話せばいいんだろう…。
会社で会って始めに声をかけてきたのは不二だった。
相手は昨日のことに何も触れないで話してきた。
俺だけが戸惑っていた。
「じゃあそろそろ仕事に戻るね」
「ちょっと!待ってよ!」
「…何?」
「何、じゃないだろ!俺のことなんだと思ってんだよ!!」
俺だけが気にしてて、不二はなんとも思ってないの?
なんかすごく腹立った。
何か言ってくるかと思ったのに不二は黙ったままだった。
不二は最後まで何もしゃべらなかった。
「英二、元気ないね。どうしたの?」
彼女が心配してくれた。
しかも俺を名前で、呼び捨てで呼んでくれてる。
すごく嬉しかった。
「元気ないように見える?…うん、ちょっとね」
俺は真実を話さなかった。
今まで何があっても彼女に言ってたのに…初めての隠し事かもしれない。
だって…俺が同僚の男にキスされたなんて言ったら彼女は絶対気を悪くすると思
う。
だからあえて言わないつもりでいる。
「そんなに元気がないならさ、私と旅行に行かない?」
「いいの?!やった〜!旅行、ずっと行きたいって思ったんだよ!あ、軽井沢の
ガイドブックじゃん!!」
「そうなの。軽井沢に行ってみたくてね、もちろん英二の意見も聞こうと思って
」
「俺は大賛成だよ!!」
やった!一気にテンション上がったし!!
生まれて初めての旅行!
ってことは…
彼女を抱けるかもしれない。
彼女との旅行を楽しみにしながら会社を出ると、不二と会った。
仕事を終える時間が一緒だったため不二と帰ることになった。
相変わらず気まずい感じはなくならないけど、不自然にならない程度に会話をす
る。
「そういえば…英二は彼女と順調らしいね」
「ん?まぁね!旅行に誘ってくれたし!俺達そうなるのってまだ早いかな〜なん
て思ったのに彼女から誘ってくれて本当に嬉しい」
「…そうなるってどうなるの?」
「え?…いや、わかるでしょ」
「知らない。どういう意味?」
わざわざ説明しなきゃわかんないことかな?
不二は鈍そうには見えないんだけど。
「え〜だからさー、彼女とヤれちゃうかも…」
ドサァァ!!!!!!
いってぇ…。
不二がいきなり俺のこと突き飛ばした。
意味わかんない…俺おかしいこと言った?
「痛いんだけど不二。お前最近の行動が変!」
「…みっともない…ふしだら…きたない…」
ブツブツと不二は言った。
表情は暗く、俺が話しかけても何も答えなかった。
「やめて…いやだ…旅行…やめて…」
「不二?不二ってば!!」
不二がだんだんわけわからなくなってきた。
薬でもやってんの?って思っちゃうくらいだった。
俺は分かれ道でさっさと帰った。
不二には何も声をかけずに。
不二とはあまり関わらないようにした。
そのおかげで彼女と楽しく毎日を過ごしていた。
連休が入り、旅行へ行く当日になった。
最近じゃ不審者もいなくなって快適な日々を送っていた。
もう心は踊るばかり。
小さなキャリーケースを持って現れた彼女がこっちに手を振っていた。
「あ!英二〜!!おはよ〜」
静かな早朝だった。
人も車も通らない場所で待ち合わせだった。
しかし一台の車が突然現れて、彼女の後方をめがけて猛スピードで走ってきた。
俺は瞬時にその車が彼女をひこうとしていたのがわかった。
「英二?あ!!」
彼女を突き飛ばして車にひかれないようにしようとした。
だけど行動を起こす前に俺は誰かに後頭部を殴られ意識を失った。
彼女が「あ!!」と言ったのはきっと俺を殴った奴を見たからだろう。
意識を失う直前、俺が見たのは血まみれになった彼女の姿だった───
