なんてことが起きたんだろう。
まさか火事が起きたなんて想像もしなかった。
俺は不二の元へと走る。
「不二!しっかりして!!」
「英…二…ぼく…は……だいじょ…ぶ…」
煤まみれのまま、救急車に運ばれる。
俺も一緒に同乗した。
後から警察が来てあのマンションの一室は俺が住んでいた場所だとか、火事にな
った原因は何か思い当たるものはないかだとか様々聞かれた。
おそらく俺が火の元を確認しなかったのがまずかったんだと思う。
急いでたなんて言い訳にはならないだろうし、マンションなんだから近隣の人に
も迷惑をかけてしまったんだ。
悪いのは俺。
不二は入院しなくてはいけないらしいけど数日で治るらしい。
大事に至らなくてよかった。
「よかった、退院できて」
「そうだね…でも僕の火傷なんて大したことなかったんだよ」
なんて不二は強がってるけど…だいぶ黒い煙だって出てたし危なかったのに。
無事でよかったと言いつつも、後で聞いた話だと俺の一室は約半分焼けてしまっ
たようで修理費がバカにならないほど高かった。
と嘆いていると不二も半分出してくれると言った。
悪かったのは僕だと。
「まかせっきりにした俺が悪いんだよ!お金なんていいってば」
「そうはいかないよ。英二が嫌がっても半額出す」
不二は頑固だった。
そこまでしてもらわなくてよかったのに。
暫くは不二の家にお邪魔することになった。
俺も合鍵をもらって自由に出入りできるようになった。
「家の方大丈夫だった?火事なんて本当に災難だよね」
「ん…まさか俺ん家が火事なんてさ」
彼女が心配してくれた。
嬉しかった。
火事のせいでなかなか出かけられなかったから、久々に一緒に出かけたいと思っ
た俺はデートに誘った。
すると彼女は恥ずかしそうに言い出した。
「私の家…来ない?」
「え…いいの?」
「うん…まだ英二くんに不審者がつきまとってるんでしょ?夜、外にいない方が
いいなら…そうしない?」
俺は即OKした。
初めての彼女の家…しかも一人暮らし。
つまり二人っきり。
そう考えただけでドキドキしてきた。
一方、左腕がまだ完治していない不二は包帯を巻いていた。
それでもちゃんと仕事をしているのだからいいのだけれど、不二が火傷をしたこ
とと、俺の火事が結び付いたらしく…一緒に暮らしていることが知られた。
「不二くんは英二くんのボディーガードだもんね」
「そうだよっ!巷じゃ噂になってるとか言うけど俺はお前のことしか愛せないか
らな〜!変な勘違いするなっての」
ガチャン!!!
び、びっくりした…誰かがカップ割ったんだ。
あれ?
割ったの…不二じゃん。
やっぱり腕が完治してないから慣れないんだろうな。
「大丈夫?カップの欠片は危ないから俺が片付けるよ」
「そう…ありがとう」
「(不二…なんか怖い…)」
舌打ちをした不二はオフィスを出た。
具合悪い?いや…もしかして変な勘違いってのに怒ったのかも。
謝らなきゃ…
「不二!ごめん…俺、酷いこと言った。不二はさ、俺にとって大切な友達なんだ
。だから…」
「…ねぇ、僕のこと嫌い?」
嫌い?どうしてそんな質問するの?
嫌いじゃないのに…。
「嫌いじゃ…」
「じゃあ好き?」
「う…うん」
その時だった。
不二がすぐ目の前にいて近いな、と思ったときには俺の唇に柔らかいものが当た
っていて。
これは…
これは俺が彼女と別れる際にいつもしていたスキンシップ…
キス…
「ありがとう…僕も英二のこと好きだから」
好きだからって…なんでキスなんてしたんだろ…。
