殺るか殺られるかの緊迫した中で俺は意識を失った。
気が付くと俺は自分の家にいて、ベッドで横になっていた。
そこには俺の手を握ってくれていた…不二がいた。








「気が付いた?…君、倒れていたんだよ。工事現場付近の地面でね」

「あ…」

「本当は僕の家に連れて行こうと思ったんだけど英二の家の方が近いじゃない? だから鍵を使わせてもらったよ」







助けてくれたんだ…。
俺…不二に悪いことしちゃった。









「あ…あのさ…」

「君の言いたいことはわかってる。ボディーガードが必要なんだろ?その役目は 僕しかいないと思うんだ。あぁ、でも彼女と同棲なんてこともできるけどね」

「同棲なんて!考えたこともないよ、まだ付き合ったばかりなのに」







しかも女の子じゃ危ないし。
やっぱりここは不二に頼みたいし。







「不二、また一緒に暮らしてくれない?合鍵も渡すからさ」

「えっ、鍵くれるのかい?ありがとう…じゃあお互い仕事の終わる時間が違って ても大丈夫だね」







後日、鍵屋へ行って合鍵を作り不二に渡した。
再び不二に守られる暮らしが始まった。















不二がボディーガードになると途端にピタリと奴の気配がなくなった。
やっぱりボディーガードなしでは俺は一人になれない。

そのような話を彼女にもした。
彼女には俺の全部を知っておいてもらいたかったし、隠し事は嫌だから。
もちろん、不二とは中学時代からの親友という話もした。
いろんな話を彼女にした。








「そうなの…大変な思いをしていたのね。」

「まぁ怪我とかしてるわけじゃないからね」







彼女が心配してくれてすごく嬉しかった。
























日曜日。
約束の日を迎えた今日は彼女と水族館へ行く日だ。
俺は最近買ったばかりの服を着てデートに出かける。
もちろん彼女とお揃いのリングも付けて。

俺が身支度していると不二が起きてきた。
いつもより遅く起きた不二はぼけっとした表情で俺を見た。







「あれ?…今日何かあるの?あぁデートだっけ」

「そうだよん!あ、ボディーガードは今日しなくていいよ?早めに帰るつもりだ し」

「…そう?ならいいけど」







不二は洗面所に向かった。
時計を見るともう約束の時間になりそうだった。







「あ〜遅刻しちゃう!ふーじぃ!火の元と鍵お願〜い!」







ちゃんと聞こえたかな?
返事が聞こえなかったけどまぁいいか。
時間に遅れないために俺は家をさっさと出た。

学生時代にテニスで鍛えた甲斐あってか、走ってなんとか間に合った。
彼女はもう待っていた。







「ごめ…はぁ…はぁ…間に合わなかったかな?」

「大丈夫、私が早く来ちゃっただけ。ね、今日はイルカショーが見たいんだけど …いいかな?」

「もち!メインだしね〜!」







俺は周りの目を気にしながらも彼女と手を繋いで中へと入っていった。








広い水槽の中で優雅に泳ぐ魚達はとても可愛くて心が和んだ。
そんな中でもやっぱり彼女が一番可愛い〜って言ったら頬を赤くして喜んだ。
付き合ってよかった。

実は彼女ってものを作ったことが今までになくて。
いい感じになりそうだったのは何回もあったけど、俺自身が彼女とかに興味がな かったってことが問題だったかも。
あの頃はひたすらテニスばっかやってたもんな〜。







「ショー楽しかったね。なんだか子供みたいにはしゃいじゃった…」

「いーじゃん!楽しむことはいいことなんだぞー!あっ売店でイルカグッズ売っ てる〜!ね、ね、色違いで一緒にストラップ持たない?」

「可愛い!うん、一緒に持ちたい」







彼女はピンク、俺はブルーのイルカが付いたストラップを買った。
ケータイに付けたら絶対可愛いし。
彼女もにっこりしてたし充実したデートができてよかった。



でも今日はこれでおしまい。
大人のデートはこれから、と言いたい所だけど変な奴につけられているというこ とは彼女も知っている。
そいつが夜に現れやすいから早めに帰ることを理解してくれた。








「ごめんね、今度家に泊まりにおいでよ。そしたら俺達ずっと夜も一緒にいられ るし」

「うん、でも悪いのは英二くんじゃないんだから気にしないのが一番だよ?」

「えへへ…サンキュー」







俺は彼女を家まで送った。
まだ夕方なんだけどね…本当に申し訳ないや。
でも彼女もまたデートしようねって言ってくれたし…。
また次があるさ!と陽気に自分の家へ帰ろうとした。




だけどそこは人だかりになっていて。

救急車と消防車がいて。

意味がわからず人をかきわけていくと、そこにはタンカーに乗せられた不二が煤 だらけになっていた。

マンションは俺の家の所だけ少し焦げていて。









即座に俺は“火事”が起きたのだと悟った。