不二と一緒に暮らして半年が経った。
環境にも慣れた。
まだ癒えたわけじゃないけど彼女のこともだんだん落ち着くことができた。
俺も大人になるんだし気持ちの切り替えができなきゃ駄目だよなぁ…。
仕事の方はどうなったのかと言うと、なんと不二がもう一度職場に復帰できるよ
うにお願いをしてくれたのだという。
あんな上司じゃ無理だと思っていたのに…不二はどうやったのかわからないけど
、そのおかげで俺は脱フリーターとなった。
不二には感謝してもしきれないくらいだ。
本当に不二はいい奴だ。
「あ!そうだ、今度飲み会があるんだけど英二も行くよね」
「ん〜…俺行っていいのかなぁ。いろんな人巻き込んでるのに」
「当たり前だよ、皆英二に戻ってきてもらってよかったんだよ」
「そっか…だったらいいんだけど」
飲み会か…楽しめるといいなぁ。
だけど不二は疲れていた。
俺を呼び戻してから不二の仕事量は確実に増えた。
俺がカバーできるところはしているんだけど…これも辞職なんてしたせいなんだ
よな。
あんまりにも申し訳ないから何かできることはないか不二に聞いてみた。
すると不二は旅行をしたいと言い出した。
観光地を回るんじゃなくて、宿に泊まるだけでいいらしい。
とにかく疲労を癒したいのだそうだ。
それなら俺も賛成…でも男同士で旅行なんて普通行かないか。
まぁ世間での常識なんてどうでもいいけどね。
「ところで何処行くの?」
「軽井沢がいいな」
俺は不二を見張った。
そこ…彼女と行こうとしたところじゃん。
わかっててなんで軽井沢なの。
いくら不二でもそれは嫌…
「場所…変えてくんないかな。軽井沢は…」
「そう、残念だね。じゃあ英二は何処がいいの?英二の好きな所でいいよ」
不二は風呂場に行った。
なんだよ…不二…ちょっとは気遣いあってくれてもいいと思ったのにさ…。
それとも俺が気にしすぎなのかな…。
結局行く場所は決まらず、旅行は行かないことになった。
「家でのんびりしてるのが一番いいよね」
「ん…そう?」
「英二は何処か行きたかった?」
特に行きたい場所はなかった。
確かに家で十分かもしれない。
なんだか疲れた。
ちょっと寝ようかな。
俺は夢を見た。
死んだ彼女が出てきた。
久しぶりに会うねって話をして。
すごく楽しかった。
でも彼女は何か言いたそうだった。
俺がどうしたのって聞いても何も言わないでいて。
ショックも受けなきゃ、怒りもしないから聞かせてと言った。
『あのね…驚かないで。不二くんと今暮らしてるみたいだけど…気がないなら早
く離れた方がいいよ』
「どういうこと?不二はいい奴だよ。時々理解できないときあるけど…」
『あなたを殴ったのは不二くん。カップ麺のゴミは英二のものだよ、私持ち帰る
所見たんだもの。でも声掛けようとしたら黙ってくれって脅されたのよ…あなた
の親友だから悪いことを言っちゃいけないと思ったけど…気付いていない英二を
不憫に思って、今回あなたの夢に現れたの』
面白い夢だねって笑ったら彼女は本気で言っていると激怒した。
彼女が嘘をつくとは思えないけど、これは夢であるし…。
もし本当なら…
「殴ったのは不二って言ったよね?あのときお前がひかれそうになってたから俺
、助けようとしたんだよ?それを不二が邪魔したってわけ?だったらお前のこと
死んでもよかったってことになるじゃんか。…そんなの違う違う!不二は性根悪
くないもん!そんなことしないよ!」
『私を信じて…でも…無理ないわよね、私だって信じられないもの…不二くんは
いい人だと思ってたから』
「う……夢か…」
彼女の夢はリアルで、夢とは思えなかった。
記憶もちゃんとある。
不二が…俺を殴った?
カップ麺のゴミを持ち帰る?
それが本当なら…不二はストーカーじゃん。
でも違和感は十分感じていた。
必死にゴミ隠したり、不二と一緒の夜は下半身がおかしいし、不二がボディーガ
ードをしていないときだけ誰かにつけられてた。
その誰かって不二なんじゃないかって思った。
俺の気のせいなら全然いいんだけど。
どうしても彼女の言葉が気になって不二を直視できなかった。
台所に行くと不二が夕飯を作っていた。
「…目が覚めたかい。君の好きな玉子焼き…食べてもらいたくて沢山作ったんだ
。食べてよ」
想像を絶する量の玉子焼きが食卓に置かれている。
一面黄色でバターの香りが鼻にツンとくる。
少し食べるから美味しいのに、これだけ量があったって食べれるわけがない。
「食べて…英二」
