会社の人には見られたくなかったから手を離したけど、不二って何がしたいのか わかんなくなるときがある。
仕事中だっていうのにトイレでしたい、なんて言って俺の身体を要求してくるし …。
同じ部署だから話すだけなのに女の子と話してると女の方が好きなんだ、って怒 る。
そんなこと言ったら俺って不二としか話しちゃいけないの?
そんなのおかしいよね?


それだけじゃない。
一緒に住んでるのをいいことに夜なんてほぼ毎日だし…
嫌なわけじゃないけど…すごく困った。
身体だってもたない…

だから俺は不二とはこれからも付き合っていくけど、ある程度距離を保ちたくて 住まいを別に設けることにした。
もちろん不二は反対するだろうから、不動産会社と折り合いを付けてから話をし た。

当然、不二は驚いて俺に考え直してくれないかと言った。







「何故だい?僕と離れたいのかい?」

「不二に…依存しちゃうんだよ。ほら、任せっぱなしで食事作らせたりしてるし さ」

「そんなの構わないよ!…行かないで、行かないでよ!!」

「え…」

「行かないで!!!」







俺は不二が不安定に見えた。
俺がいなくなったとき…不二がどうなっちゃうのかと考えたら怖かった。
さっきから俺は不二に対して“怖い”とばかり言っている気がする。
恐怖の対象なわけじゃないけど…不二と離れたいわけじゃなくて…好きだけど…

あぁぁぁ!!!
もう自分がわからない!!
どうしたらいいの?!!







「ごめんね…不二。本当に頼ってばっかじゃ俺自身が納得できないんだ、だって 俺社会人で大人だよ?」

「……わかったよ、行けばいい…好きな所に」

「不二?」

「…今度遊びに行くね」







不二は納得した?
なんだかよくわからなかった。
でも距離取らなきゃ…じゃないと毎日抱かれちゃうし…

こうして俺は不二と離れて暮らすことになった。
離れて暮らすなんて言っても大した距離があるわけじゃないけど…これで不二の “しつこさ”から逃れられるならいいや。

…やっぱりいくら好きでも不二がしてたことって…ストーカーだったんだよな。
それなのに付き合った俺ってバカなのかな…いやいや!不二は不安定なだけで根 はいい奴だもん!









会社内でもあんまり強要しなくなった不二は、気持ちも落ち着いたようで俺とし ては嬉しかった。
ホテルだってたまにしか行かないし、互いの家に行ってもそのまま寝ちゃったり …。
だからすごく幸せ。
これがホントの愛じゃないかなって思った。







だけど…最近また監視されてるような雰囲気を感じた。
気のせいだと思いたい。
でも気のせいじゃないらしい。

すごく失礼なことだとは思ってるけど…また“始めた”のかなって思った。
俺が歩けば、そいつも歩くし…止まれば止まる。
まさに典型的。

付き合ってんだからこんなことするはずないのに…疑ってる俺自身が嫌になる。

でも…ある日、俺のドアノブに何かがぶら下がっていた。
わけがわからなくて、でも触るのも怖くて…ぶら下がっていた袋を摘んだら誤っ て落としてしまった。

中からドロっとした液体が出てきて、それが見たことのあるものだったとわかっ たときは悲鳴を上げた。
近くの住人も駆け付けて大事になっちゃったけど…俺は意を決して言った。









「…不二」

「英二…大変な思いをしたらしいね。だから僕と住めばよかったんだ」







「俺と…俺と離れるのが嫌だからって…まわりくどいやり方しなくたっていいじ ゃん!ひどいよ!ドアノブにあんなものひっかけて!!」

「え…?な、何言ってるの…犯人は僕じゃないよ!英二、まさか僕がやったって 思ってるの?!違う、濡れ衣だ!僕じゃない!」

「不二ならやりかねないじゃん!!!」







言ってから後悔した。
俺はなんてことを不二に言ったんだだろう。
しっかり犯人を見たわけでもなく、ただの空想で自分の恋人がやったなんて言っ て…







「…君は僕がやったと思っていたんだね。残念だよ…信じてくれてたんじゃなか ったんだ」







不二は虚ろな目で去っていった。
なんて…

なんて…

なんて…俺は最低なことをしたんだろう!
違うのに不二だと犯人にして…!

勝手に思い込んで…!







不二は次の日から会社に来なくなった。