嫌がらせと思われる電話は鳴り止まなかった。
不二の言う通り、電話番号を変えた方がいいかもしれないと英二は思った。

面倒な作業ではあったが、この状況を打破するにはやらざるをえなかった。







家の電話を新しい番号にしたら暫くはかかって来なかった。
しかしまた再び無言電話がかかって きた。

いい加減ウンザリした英二は電話線を完全に抜いてしまった。
これでは電話の意味がなくなってしまうが、不眠症になるのはもっと嫌だと思っ ていた。



















「まだ来るんだ…そいつもしつこいね」







なんで自分がこんな目に遭わなきゃいけないのかと嘆く。
優しく慰めようとしてくれた不二に英二は感謝した。










「俺…誰かに嫌われてるのかもしんない。だから…こんな電話が来たのかも」

「嫌われるようなことしたの?してないでしょ、気にしないのが一番だよ」







不安が解消される日はまだ遠い。
















英二は家へ帰ると何かに見られているような気がした。
気のせいであれば、と思っていたがやはり見られている。
カーテンの隙間からこっそりと覗いてみる。




誰もいなかった。





誰かいたら不二にすぐ連絡しようとしていた。
自分がおかしいのだと思い、シャワーを浴びに行く。


また見られている気がした。

再びカーテンを開ける。
今度は思いきりガバッと開けた。







やはり誰もいなかった。



















気にしていても仕方ない。
英二は風呂へ向かった。
シャワーの湯を浴び、髪が一本だけ抜け落ちた。
排水溝に赤い髪が引っ掛かっている。








「なんだよ…さっきの」







ストレスは体に毒であることぐらい英二はわかっていた。


溜め息をついてバスタブに足を浸ける。
滅多に入れない入浴剤を一包溶かした。
炭酸ガスが心地よかった。


ちなみにこの入浴剤は英二の誕生日プレゼントに不二からもらったものであった 。
今回はお気に入りのローズの香りだ。

風呂から上がると自分の体に香りがついていい気分になった。

嫌な思いなんてしたくない。
今日は早く寝てしまおうと英二はすぐにベッドで寝た。

















朝───
目を覚ますと顔がむくんでいた。
目の下には黒っぽいクマが出来ていた。








「昨日のせいじゃん…最悪」







はね過ぎた髪を直し、スーツに腕を通す。

今英二はひらめくように考えた。

もしかしたら自分にストーカーがついたのかもしれない、と。
確かに英二は中学の時から、いやもっと前から女の子に人気があった。
すごいときには集団で羽交い絞めにされて無理矢理キスをされたりと、半イジメ のような思いもした。
だから今回のようなケースは稀でないことは本人が一番知っている。









「女の人って怖いな…」







英二は朝すぐに不二に報告した。







「不二!聞いて!俺昨日ずっと誰かに見られてる気がしたの!ストーカーが…」

「え?!今なんて…」

「だから〜たぶん女のストーカーが俺を狙ってるんじゃないかって…」








不二は英二に対し、可愛いと言った。
そんな目に遭うのも仕方ない、ストーカーが現れてもおかしくはないと言う。
不二は一つ提案した。







「暫く僕が君のボディガードになってあげるよ。家に行ってもいいかな?」

「本当?うん来て!!」







英二は喜んだ。
不二がいれば安心だからだ。
英二がにっこり微笑むと不二もにっこり微笑んだ。







「英二…もう怖い思いをしなくてもいいからね」