ゆっくりと舌を這わされ、指がなめらかにすべっていく…
恥ずかしさのあまり思わず、ん…っと声を漏らして初めて目が覚めた。
ここは保健室だ。
そこにいるのは紛れもなく不二だった。
「おはよう。…調子はよくなったかな?」
「もう…!ばか!何かと思っちゃったじゃん!!!」
英二は起き上がって時計を見た。
まだ授業は一つ残っている。
今は休み時間か、と再確認するとクスクス不二は笑っている。
この表情はあまりよろしくないときに見られる不二の表情だ。
「ごめん英二。本当は次の授業に出られるかどうかを聞いてそれで教室に行くつもりだった」
「…だった?」
「だけど次の授業って理科なんだよね…英二がいない状態で実験なんてやりたくないな…」
誰もまだ次の授業に出ないなどと言っていないのに不二は勝手に話を続ける。
あげくに頬をすりすりと寄せていつもより低音ボイスで囁いてくる。
「英二…僕、次の授業サボるよ」
「な、何言ってんのさ!それに俺、もう元気だから大丈夫だよ?!実験参加できるよ?!」
「うん、知ってる」
「えぇ?じゃ、じゃあさ、サボらなくても──」
喋り続けることはできず不二に唇を塞がれてしまった。
そのキャンディーのような不二の唇で。
呼吸ができず苦しくなり、顔を赤らめた英二。
不二はいつもの笑顔のまま英二の学ランに手を忍ばせた。
「昨日の…続きしない?」
我ながら馬鹿だと思った。
あんなこと保健の先生が不在だったからできたようなものだ。
まさか早速保健室デビューする羽目になろうとは英二は思わなかった。
もちろんそんな激しい行為はしていない。
保健室に人がいないからってそんな危ない橋は渡ることもできず、ただお互いのものを触り合ったり、キスをし合ったりしていただけだ。
だからといって授業をサボってまでするようなことではないと英二は思った。
「あんなに気持ちよさそうにしていたんだ…英二だってしたくてしょうがなかったんだろ?」
確かに不二としかも授業中の誰もいない保健室を陣取っていちゃいちゃできたのは嬉しかったしよかった。
だが思い返しても恥ずかしい。
ついこの間まで肌を重ね合わせたり触れ合うことについて悩んでいたのが嘘のようだった。
「〜!もういいからっ!」
「真っ赤になっちゃって。可愛い英二」
ちゅっと軽いキスを頬にして不二はそろそろ教室に戻るよと声をかけた。
こちらはどきどきしているのに不二が余裕でいるのがなんだかずるいような気がしつつも、いつまでも保健室にいるわけにもいかないので不二の言うとおりに保健室を去ることにした。
そのときカタンという音が聞こえたような気がしたが気のせいだろうと思い、英二は慌てて不二を追いかけていった。
放課後になると英二の携帯には2通のメールが来ていた。
一つは手塚からのメールで青学テニス部員全員に送信されているものだった。
なんと今秋にU-17合宿というものがあるらしく、青学のレギュラーメンバーは全員参加となるらしい。
全国大会で幕を閉じたと思っていた英二達には朗報であった。
そしてもう一通は大石からのメールだった。
早速鈍った体を動かすためにダブルスとしての相談をしたいと話を持ちかけてきたのだった。
以前自宅に押しかけて行ったときのことを思い出し、少々気まずさはあるものの今ここでそれを解消しておかないと後でまた一緒にいるのが辛く思うかもしれない。
だったらあらかじめ大石と話をつけておきたいと英二は考えた。
不二に話すと快くオッケーをしてくれた。
「君達は大切なパートナー同士だものね」
僕は英二を信じてるからとだけ言うと不二はまたいつもの微笑む表情に戻る。
大石の家に押しかけた話をしたときはあまりいい表情で聞いていなかったのは英二も知っている。
だが不二とは完全に仲直りをしてお互いを信じあうと約束したのだ。
「行っておいで。僕は待ってるから」
「…ありがと、不二。あ…あれ?」
英二はポケットに手を入れると表情を硬くした。
ポケットに入っていたはずの財布がなくなっている。
どうやら無くしてしまったようだった。
おそらく先ほどまでいた保健室で落としたのではないかと英二は考えた。
それならば僕が探しておくよと不二が返事をしてくれたので、英二は不二の優しさに甘えお願いをした。
英二は先に大石との話を終わらせてくると言って大石のいる教室へと向かった。
不二は英二を見送ると保健室へと戻った。
床を探すと英二が持っていた財布が見つかり手間をかけずに見つかったのでよかったと内心ほっとしていると、誰かの気配を感じた。
カーテンが閉められているそこには誰かがいるような気がした。
気のせいではない。
もしかしたら誰かが寝て休んでいるのかとも思ったがもう放課後であるし、もしそうだとしたら何か変だ。
おそるおそる不二はそのカーテンに手をかけた。
ジャッと開けるとそこには携帯の画面を眺めてにやついている越前がいた。
大石との話し合いを終わらせ教室へと戻った英二。
しかしまだ不二は戻っていなかった。
まだ財布を探しているのだろうかと考えたがそれにしては遅すぎる。
英二は不二が心配になり保健室へと向かった。
保健室に入るとそこには信じがたい状況が英二の視界に繰り広げられていた。

